2012年1月16日月曜日

日銀総裁を批判する前に思い出すべきこと

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金融政策に関して日本銀行を批判する人々が多数いる(関連記事:リフレ政策は本当に下火になったのか?)。昨日も『【日本の解き方】“ダメ”な日銀総裁を解任できる規定を!』と書かれていた。中央銀行の独立性自体を否定する挑発的な内容だ。日銀総裁を「国民にとってはいい迷惑」と断罪している。しかし日銀総裁の是非はともかく、その考え方が分析されてはいない。他の日銀批判の記事でも、日銀総裁の考え方を分析する事は無いようだ。

1. 日銀総裁は保守的で常識的

日本銀行総裁白川方明氏の考え方はトンデモのように批判する人々もいるわけだが、実際は保守的な立場だ。ソロー・モデルやRBCの影響が強いものの、学術的な根拠を欠くわけではない。労働人口減少過程にある日本では、労働者一人あたりの生産量が増えても、日本経済全体の生産は落ち込む傾向がある(平田(2011)林(2002))。これが期待成長率の低下をもたらし、低いインフレ率を維持していると考えている。日銀批判で知られるノーベル賞経済学者クルッグマン等も、デフレ下の日本でも労働人口あたりの生産性はある程度向上している事を認めており(NYTimes.com)、白川総裁が暗に示唆している経済モデルがトンデモとは言えない。

2. 常識的だが期待には応えていない

では日銀への批判がトンデモかと言うと、そんな事もない。

物価や賃金の下方硬直性は実証的には否定できない事実である(水野・渡辺・齊藤(2010))し、デフレの害を否定する人は少ない。デフレ下では価格調整速度が低下するために、雇用量が限定される上に、構造改革が進まない。地方の売れ残りの不動産物件も、インフレならば気付くと実質価格が低下して必要な人が買うのであろうが、デフレなら売値を下げて行く必要がある。しかし、権利関係が複雑な場合、この種の価格調整が難しい事は経験的に明らかだ。経済危機では債権買取機構が設立されたりするものだ。またデフレ下では企業年金や厚生年金の負担も大きくなり、それも企業経営に影響を及ぼしている(樋口(2010))。

インフレ・ターゲティングの導入で期待インフレ率に影響を与え、デフレから脱却できれば上述の問題は解決する。デフレ環境でインタゲを導入した場合に、上手く期待インフレ率を上げることが出来るかは不明であるが、インタゲ導入による大きなデメリットは無い。

3. 日銀人事の歴史的経緯

日銀批判者は労働人口減少による影響は誰も否定していなくて、その上でインタゲ導入やリフレ政策を主張している。確かにリフレ政策には乱暴な面 ─ 流動性の罠で量的緩和が有効になる理論的根拠が無く、ECBやFRBよりも日銀のGDP比マネタリーバランスが大きいのにデフレである説明が無い点 ─ も多いが、インタゲを導入しても問題は無いはずだ。なぜ日銀総裁はそれに否定的なのであろうか?

歴史的な経緯を考えてみよう。白川方明氏は2008年に日銀総裁に就任しているが、自民党の提案人事を民主党が拒否した上で、白川氏が選ばれた経緯がある。自民党提案人事に強力なインタゲ主唱者がいた事から、就任人事の結果として非インタゲ路線が支持されていると白川氏が思っていても不思議は無い。

鳩山氏がインタゲ導入を白川氏に迫った主張している(asahi.com)が、インタゲ論者を日銀総裁から外させたのは鳩山氏が党幹事長であった民主党だ。あぁ、やっぱり民主党かと思うかも知れないが、2007年7月に参議院選挙に大勝させてしまったのは、日本の有権者である。

2 コメント:

ステゴザウルス さんのコメント...

インフレターゲットを肯定するのはかまわないが、例えば日銀総裁が「インフレターゲットを設定します」と宣言して、市場は信用しますか?誰もしないでしょう。ご自身で述べられているように「インフレに出来るかどうか分からない(どうすれば良いのか方法が無い)」のに宣言だけしても何の意味も無いと思います。
本来インフレターゲットは「物価上昇率をある範囲に"抑える"目標値」ではないでしょうか。

uncorrelated さんのコメント...

>> ステゴザウルス さん
コメントありがとうございます。

> 例えば日銀総裁が「インフレターゲットを設定します」と宣言して、市場は信用しますか?誰もしないでしょう。

確かにここが問題で「日銀が本気だからインフレになる」と市場が信じないと意味が無いわけですね。以前のエントリーでも指摘しています。

リフレ政策が不可能な単純な理由
http://www.anlyznews.com/2011/08/blog-post_31.html

インタゲを宣言してどんどん国債を買い込めば、ある程度は市場も覚悟するとは思いますが、どの程度の効果は試してみないとはっきりしないでしょう。

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