一般公開されていた『「社会正義」はいつも正しい: 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』の巻末訳者解説が、出版社から「本文とあわせて読まれることを前提に書かれ(ていたので)本文と切り離した形でウェブ公開すること自体が不適切」*1編集者から「テキストが持ちうる具体的な個人への加害性にあまりに無自覚」だったとコメントが出されて、公開が停止された。
早川書房のこの自己検閲*2、気持ち悪さが残る。誰か個人が苦情を申し立て、それに出版社が応じて公開を停止したことが想像される書き方だ。そもそも一度公開した文章を、外部からの批判なくして撤回する理由は乏しい。出版社が納得するだけの理由がそこにあれば自己検閲を非難し難いが、山形浩生解説のどの部分が問題とされたのかすら判然としない。そこで非難されているのは、「一応はまともな肩書きを持つ学者たち」の理論、「社会正義」に目覚めた(Wokeな)意識の高い人たちの振る舞いだ。
山形解説を封じたい人々は、論を批判するのではなく論を封じるような行為を好む、このどちらかになる。出版社に関係のある誰かが「傷付いた」と言い張ったのでは無いであろうか。これはもちろん邪推に過ぎないが、早川書房の説明が具体性に欠くので邪推したくなる。「加害性」と言う意味不明な言葉から、加害したと受け取られたくはないが、加害だと言う申し立てには配慮したと言いたそうであるし。
*2山形浩生氏が翻訳や解説が今後できなくなったわけではないのでキャンセルカルチャーではない。
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