2020年4月20日月曜日

日本はPCR検査能力が逼迫しているので、新規陽性者数が頭打ちなのか?

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ここ1週間ほど全国の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規陽性者数の上昇の伸びが止まっているのはPCR検査能力が逼迫しているためであって、市中では感染が広まっていると言う説を唱える人が増えてきた。社会調査データの処理の専門では無さそうだが、感染症の研究者もその中に含まれる。しかし、幾つか説に合わない数字や話があるので、指摘しておきたい。

1. PCR検査能力の上限に達していないと見るべき理由

毎日の検査を要すると見なされる患者の数が、PCR検査能力の上限に達していないと見るべき理由は次の通りだ:

  1. PCR検査実施件数が、PCR検査キャパシティの上限に達している日ばかりでは無い。東京都は検査実施件数を出しているのだが、4月13日に1349件を行ったものの、その後2日間は877件と1049件となっており、溜まっている検査依頼を遅延しながら処理している数字の動きになっていない。平日は1300件が続くと言うわけではない。
  2. 日本のCOVID-19の致命率(CFR)は国際比較して低めであり、相対的に感染者に対する検査率が高いと考えられる*1
  3. 3月17日に厚生労働省が『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第1版』に記載したPCR検査ガイドラインに沿った検査ができないと、医師会の方から文句が出ていない。
  4. CT画像による診断ではCOVID-19とは診断されず、細菌性肺炎とされ、ガイドライン的にはPCR検査されない患者がされた事例が、匿名だが報告されている*2。症状が重ければ、基準外でも検査してもらえる。

追記(2020/04/21 00:07):文春オンラインで、杉並区長の田中良氏が自宅待機者が都の統計に含まれていないと主張していると言う指摘があったのだが、今、確認をしたところ「 (注)「入院中」には、入院調整中・宿泊療養に移行した方を含む」と書いてあるので、勘違いだと思われる。田中氏が見たときには書いていなかったのかも知れないが、東京都の方に問い合わせて裏をとって欲しかった。

追記(2020/04/21 00:56):上述の東京都の検査件数は、医療機関が保険適用で行った検査数が含まれるので、東京都の検査能力を示さないという指摘があったのだが、むしろ保険適用分も含む方が妥当だ。帰国者・接触者外来で取り扱った行政検査と、それ以外の医療機関が保険適用で行った検査に分けられているが、3月4日の厚生労働省「新型コロナウイルス核酸検出の保険適用に伴う行政検査の取扱いについて」によると、これらは検査費用の出処の差異を示す違いであって、検査リソースの所有者によって分けられているわけではない。

追記(2020/04/30 17:18):データ公表時点では行政検査のみが計上され、一週間後に医療機関が保険適用で行った検査の数が追加されている事から、4月16日から22日までのデータで両者の比率を確認してみたところ、64%が医療機関が保険適用で行った検査であった。

2. 検体採取手配の遅れは大きなバイアスではない

NHKの4月17日の報道では、検体採取の手配に時間がかかり、検査結果が出るまで時間がかかったケースはあるのだが、全体として統計に大きなバイアスを与えているようには思えない。

東京23区の保健所に、検査が必要と判断してから実際に行うまでにどのくらい時間がかかっているか尋ねたところ、長い場合には、「4、5日程度」かかっているという自治体が複数あり、最長で1週間程度かかったという自治体もあることがわか」ったとあり、検査が遅延したケースは否定できない。しかし、平均的な話ではないし、長い場合に複数日かかるとした区は8に留まり、9はそのような事実は無く翌日に戻ってきているようだ。6は無回答。さらに、回答があった区はいずれも「重い症状の人は優先してその日のうちなどに検査している」としている。

葛飾区地域保健課の橋口昌明課長の「検査態勢がじわじわとひっ迫してきています。翌日にお願いしたいということで専門の外来で検体をとってもらっていたのが今ではおよそ4日かかっています。ここ2、3週間でじわじわと検査待ちの日数が延びていて、自然に渋滞が起きてしまっている状況です」と言う証言をそのまま信じるとしても、葛飾区だけの可能性もあるし、他の区も同様でも3週間かけて3日間伸びている程度なので、新規陽性者数の下方バイアスは程度が知れている。ここ1週間ほどに急にトレンドが変化したわけで、3週間前からの緩やかな変化は大きく状況を左右しない。1週間前と比較する場合は、R₀=2.5としても、11%強の下方バイアスがかかっているだけだ。23区のうち葛飾区と同じ遅延が出ているのは練馬区だけだし、もっと下方バイアスは小さくなる。

3. 曖昧な政策による微妙な結果

PCR検査数を増やさず*3ロックダウンと言うか戒厳令的な強行な手段をとらない政策で、感染者数の増加を押さえ込んでいるようで押さえ込め切れていない国外に例が見られない微妙な状況なので、ニューヨーク州のような悲惨な状況になる前夜でしかないのではないかと言う危惧が出てくるのだと思うが、数字自体は言われているほど胡散臭くは無い。曖昧な政策で微妙な結果を出しているのは恐らく事実だ。台湾や韓国のように押さえ込みつつある所と比較して、上手くやっているとは言えないのだが、イタリアやニューヨークのように医療崩壊した所と同じかと言うと、かなり違う。

*1真の感染者数の推定法(その2)|ショーンKY|note

*2一人暮らしで新型コロナウイルスにかかった話|RO|note

*3厚生労働省が定めた検査基準は概ね守られているようだが、そもそもその基準が医療行為の差し支えになっていると言う不満があって、東京医師会は自らPCR検査センターを設置することにした:都内に「PCRセンター」設置へ 地域の医師判断で検査 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

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