2016年5月21日土曜日

ノン・ポンジ・ゲーム条件もしくは負債の横断条件

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経済学に限らず専門用語は往々にして、定義が誤解されがちなところがある。専門家の間でも混乱が見られるときがあるぐらいだ。最近はリフレ派界隈でノン・ポンジ・ゲーム(以下、NPZ)条件について誤解が見られていて、財政問題におけるNPZ条件が長期的に政府債務がゼロになる事を意味していると解釈されていた*1。しかし終わりの無い経済を考える限りでは、これは当てはまらない。

無限に出資額を増大させていくネズミ溝の事を、20世紀初頭の詐欺師の名前にちなんでポンジ・ゲームと言う。例えばt期に利率10%で100万円を借り、t+1期に利率10%で110万円を借りてt期の負債を返済し、t+2期に利率10%で121万円を借りてt+1期の負債を返済し・・・と、自転車操業を行いつつ負債を無限に増大させていくと、債務者は100万円の得をする。NPZ条件はこれを満たさない事を要求する*2

NPZ条件を満たす例と満たさない例をあわせて三つ挙げよう。0期に金利10%(複利)で1万円を借りて、1期以降返済していく場合を考える。1期以降、

  1. 500円づつ返していくと、無限期先の負債は無限大で、返済額の割引現在価値は5000円。0期の債務者の損得を考えると、借入金1万円>返済の現在価値5000円だから、とにかく借りた方が得になる。NPZ条件は満たされていない。
  2. 1000円づつ返していくと、無限期先の負債は1万円(初期時点の割引現在価値では0円の評価価値となる)。返済額の割引現在価値は1万円。0期の債務者の損得を考えると、借入金1万円=返済の現在価値1万円だから、損得は無い。NPZ条件は満たされる。
  3. 2000円づつ返していくと、12期目に完済する。無限期先の負債は0円。返済額の割引現在価値は1万円。0期の債務者の損得を考えると、借入金1万円=返済の現在価値1万円だから、損得は無い。NPZ条件は満たされる。

借りたお金で生産活動などを行っておらず、主観的割引率も金利と同じ10%になっているが、無限期先に債務があってもNPZ条件が満たされうる事を示すには十分であろう。何はともあれ「完済」は要求されていない*3

なお、NPZ条件は詐欺行為が排除されると言う仮定で、これが問題になるのは詐欺師には誰もお金は貸さない事が前提になっている。つまり、NPZ条件が満たされていないと判明すると、債務不履行か高インフレになる。

実際には無数の返済パターン(e.g. 奇数期は借入、偶数期は返済や、100年先から返済開始)があるから、NPZ条件が満たされていないかを公理に当てはめて判断する事はできない。財政学者のNPZ条件が満たされていないと言う批判は、このまま行くと債務量が民間の国債消化能力を超えると言う意味で発散すると言う程度の意味で使われていると思う。

*1主流派経済学はなぜ消費税増税を解として導くのか」を見ると「完済」を議論している。どうもブログ主はNPZ条件の不正確な表現をしたエントリーを参照していて、それで混乱してしまったようだ。なお参照先エントリーの方は、このエントリーが出た後に修正されている。

*2通例、NPZ条件は、無限期先の資産の割引現在価値が非負であると説明される(Kamihigashi(2006))。無限期先がマイナス資産の場合は、その割引現在価値がゼロのときのみ適合する。これは負債の増加率が割引率を下回る事を要請する。なお、参照先の論文では、NPZ条件と横断条件は裏表の関係だが混同するなとあるが、割引現在価値がゼロのときは横断条件と言われることが多いようだ。

*3いつか終了するのであれば、債務がゼロにならない限りは借り倒しになるので、最終期に完済していない限りはNPZ条件は満たさなくなる。

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