インターネット界隈では雇用は景気変動から遅れて変化すると言われている。確かに内閣府でも完全失業率は遅行指標に分類している*1。しかし、早い遅いは比較の問題で、ここ数日話題になっていた四半期GDPと比較して早いかは、比較してみる必要があるだろう。過去の四半期GDPと完全失業率のデータをかき集めてきて、時系列分析的にどちらがどちらに影響しているかを分析してみた。その結果からは、四半期GDPが動くと、すぐに雇用に影響が出てきて、1年以内に収束することが分かった。四半期GDPは速報値でも、四半期の最初からは4ヶ月、最後からは1ヶ月のラグがあるため、四半期GDPが公開されたときには、雇用への影響は既に出ていることになる。
1. データセット
データ分析に使うのは、2014年11月17日公表四半期別GDP速報(2005年基準実質値)と労働力調査の季節調整済数値の就業者数と完全失業率だ。労働力調査は月次データなので、就業者数と完全失業率は四半期ごとに平均値を出して用いる。GDP速報値は就業者数で割っておき*2、就業者一人あたりのGDPにしておく。大雑把に労働生産性へのショックが、失業率にどう影響を与えるか分析するわけだ。1995年から2014年Q2までのデータを用いた。
まずは分析データの時系列のグラフを見てみよう。アジア通貨危機後とリーマンショック後に就業者一人あたりの実質GDPが下落しているのが分かるが、ほぼ同時に完全失業率も上昇している。雇用は景気の遅行指標と言われるが、四半期GDPと完全失業率の順序は、そう明確に分かる事ではない。
2. 分析手法
仕方が無いので計量的に時系列分析をしてみよう。分析手法としてはVECMを用いた。一階の階差をとり単位根を無くした上で、共和分の存在を確認している。ラグの数は赤池情報量規準から9期とした。トレンド項を入れており、変化の長期的な傾向からの乖離を見ていることになる。ソフトウェアはRでvarsパッケージを用いた。変数は就業者一人あたりの実質GDPと完全失業率しか用いていないので、経済学的に正当化された分析ではないことには注意されたい。単に、経済指標が動く順番を特定するために作業をしている。
3. 分析結果
さて、分析結果としてインパルス応答列を見ていこう。就業者一人あたりの実質GDPが上昇した場合、失業率は下落する(下図)。グラフ中の1期でショックが発生し、すぐにマイナスの影響が出ている。3期には大半の影響が出て、4期には効果が収束するようだ。四半期データなので、すぐに効果が出始めて、半年ぐらいで状況が確定し、1年以内に収束すると解釈して良いであろう。
逆の効果も見ておこう。失業率が上昇した場合、就業者一人あたりの実質GDPは4期先に低下する(下図)。消費や住宅投資に悪影響が及ぶのは1年後と言うことのようだ。だから、完全失業率は1年後に実質GDPに影響する先行指標でもある。
4. まとめと政策的インプリケーション
四半期GDPの増減が完全失業率に与える影響は迅速だ。四半期GDPが公開されたときには、完全失業率への影響は既に出ている。また、完全失業率から景気回復する効果もある。ラフな分析結果に基づくものだが、遅行指標で現在の景気の実態を表さないとするのは、やはり問題であろう。
2014年4月以降の景気落ち込みによる雇用への影響の大きさは、得られた経験則では既に観測されているはずで、10月には大半が分かることになる。9月までの数字では雇用者数などの改善は続いているし、一致指数である有効求人倍率も高水準を維持している事から、大きな景気後退ではないと言えるであろう。もちろん経験則の上ではと言うことではあるが。
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