2014年10月26日日曜日

戦略コンサルタントが教育を語るとこんな事になる

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文部科学省の実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議で提出された、戦略コンサルタント冨山和彦氏の「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」が一部で話題になっている。

産業をグローバル(Gの世界)とローカル(Lの世界)に分けて、それぞれに必要な人材が異なるとし、それぞれのタイプの人材に適応した教育を行おうと言うのが趣旨だが、色々な部分で戦略コンサルタントらしい頭の悪さを発揮している。それっぽいが辻褄のあった議論が出来ていないし、現実も見ていない。

1. 労働生産性と言う指標の罠

まずは労働生産性と言う指標の意味を確認しておこう。冨山氏も書いているが、労働生産性=付加価値生産額/投入労働時間という事になる。この付加価値生産額と言うのが曲者だ。端的に言うと付加価値生産額は、売上から原価を引いた粗利益として計算される。だから、付加価値生産額は、

  1. 競合会社がいて値引き競争でも始まれば落ちていく
  2. 規制産業で寡占化していれば価格を維持して高めることができる
  3. 利益率が落ちても資本を増やせば高めることができる

と言う特徴を持つ。労働生産性と言うと生産効率性を連想する人が多そうだが、分子の付加価値生産額は生産効率以外に大きく左右されるので、そういう数字ではない。しかし、冨山氏はこの誤った連想で議論を展開していく過ちを犯している。

なお労働生産性≒賃金とあるが、教科書的な理論でも賃金は労働の限界生産物に一致するわけで、平均生産物モドキを表すに過ぎない労働生産性との関係は明確ではない。

2. ローカルなサービス業は非競争的?

冨山氏曰く、グローバルの世界では、製造業が中心で、労働生産性が高く、競争的な環境で、雇用は硬直的になっている一方で、ローカルの世界では、サービス業が中心で、労働生産性が低く、非競争的な環境で、雇用は流動的になっているそうだ。競争的な環境の方が労働生産性が低くなり、雇用は流動的になるであろうから、この主張は支離滅裂の部類に入る。

御存知のとおり日本の飲食業や流通業は苛烈な安値競争をしているわけで、付加価値生産額、つまり労働生産性はどんどん落ちていくわけだ。逆に、鉄道や電力などの規制業種では、独占利潤を発揮して労働生産性を高めないように規制しているわけで、安易に向上してもらっても困る。ローカルなサービス産業でも、競争的な業種と非競争的な業種があるわけだが、労働生産性が低い事自体は問題にならない。

3. トヨタ自動車はローカル企業?

グローバルとローカルにすぱっと二分したのに、その二分を維持できていない事も気になる。

グローバルの世界では競争力強化が課題で、ローカルの世界では生産性向上が課題だそうだ。競争力強化と生産性向上は同じようなものに感じるが、冨山氏の世界では別らしい。同様にグローバルではプロフェッショナル人材が、ローカルでは生産性向上に資するスキル保持者が必要とあるのだが、どこが違うのかさっぱり分からない。

また、ローカルの世界のための大学の工学部で学ぶべき内容で「TOYOTAで使われている最新鋭の工作機械の使い方」があるのだが、これではトヨタはローカル企業になってしまう。逆にIT産業がグローバルに入れられているのだが、大半のIT企業は国内向けに仕事をしているし、何がグローバルで何がローカルなのか良く考えてはいないようだ。

4. 専門学校が好まれない現実を無視

労働生産性の向上を目標にしている所は、人的資本の拡充を目指していると読み替えてあげても良い。グローバルな世界とローカルな世界の区分けが出来ていない所も、ホワイトカラーとブルーカラーの世界と読み替えてあげても良い。設備更新されたら使えなくなる安い技能を教えてどうするのか疑惑のある「最新鋭の工作機械の使い方」も、生産現場に活かせる知識と読み替えよう。しかし、最後の提言部分で現実を無視しているのは問題だ。

専門学校は『「学問」よりも、「実践力」を』目指し、『民間企業の「実務経験者」から選抜』された教員が多く、まさに冨山氏が求めるローカルの世界のための大学の理想像が実現されている。専門学校化している無名大学も、含まれるであろう。だから、冨山氏の言うローカル人材のための教育機関と、グローバル人材のための教育機関は既に分かれてあるわけで、冨山提案は「高等教育の大改革」ではなくて、単なる追認になっている。

さらに、専門学校が好まれていない現実もある。企業は専門学校卒業生を重用しようとはせず、結果的に生徒も専門学校に進学しようとはしない。米国でもビジネスなどに特化した人材だけではなく、より広い学問的バックグラウンドを持った人材を取りたがる企業が多いわけだが、日本企業も同様なのであろう。以前に英文科を卒業したLSI技術者が新聞で紹介されていたが、学校で学んだことをそのまま役立てる事は求められていない。

何はともあれ冨山氏は現実の教育機関が何をしているのか、世間でどう思われているのかを見ていない。「筆者は日本のトップ戦略コンサルタントの一人」と宣言してしまう冨山和彦氏がMBAを取得したと言うスタンフォードビジネススクールでは一体何を教えていたのか。グローバルな世界のための人材教育への提言も無いし。

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