確率論やフーリエ解析などの応用分野でよく見る数学の裏側には、ルベーグ積分と言うモノが潜んでいる*1。中高までが基本とするリーマン積分では極限操作が扱いづらいなどが理由だが、これを真面目に勉強し出すとそれなり骨が折れるものだ。ただし定番と言われる教科書、伊藤(1963)『ルベーグ積分入門』がある。著者の伊藤清三氏は東大の教官だった人で、この教科書に関連して有名な駄洒落を残している*2。
前文を読むと物理や工学分野の独習教材として書かれたようだ。工学分野はおろか、数学科においてさえもルベーグ積分を十分な時間を割いて講義する時間は無いそうだ。ルベーグ積分を理解したい理工学系の大学生は、このような教材で自習することになる。自習教材らしく、行間を推測する必要はそうは無く、問題にも解答例がついている。P.67の定理11.2を読むのに、P.37定理7.5、P.256付録§1問2、P.257付録§1定理8、P.247定理3のiii、P.65定理10.9(Egoroffの定理)をたらい回し的に参照したりするところは同じだが、これはページ数の限られた数学書の宿命であろう。
難しいと言う評判も見かけるわりには懇切丁寧な記述になっており、教育的配慮もされている一方で、測度や積分の定義の記述が重い。大海を泳いでいる気分になって、いつになったら読み終わるのか不安になる。『ルベーグ積分から確率論』と比較すると、カラテオドリの外測度や加法的集合函数についての議論もしっかりされるし、位相的外測度や函数空間の説明もされる。Baire函数と言う何これ?みたいなものにも触れられている。
ルベーグの収束定理やフビニの定理、リース・フィッシャーの定理の存在を知っておけば十分な事も多いので、本書の内容に過剰感があると言えばあると思う。また中心極限定理の証明にルベーグ積分を使ったりもしないので、盛り上がり感にも欠ける。初版が1963年と古い本なので、数式が綺麗ではないと言う問題もある。「はじめてのルベーグ積分」や吉田版「ルベーグ積分入門」を勧める人も多い。
しかし、あっさり要点だけ説明されると理解できたのか不安になる人もいるわけで、そういう人には本書は良いと思う。経済学徒でもこそこそと読んでいる人がいるし、グループ学習にでもすれば最後まで読めるかも知れない。自分が生まれる前に印刷された古本を買って来て読んだのだが、書き込みの文字や線がいい感じに乱れており、前の持ち主が歯を食いしばって学習を進めた感じが伝わってきて面白かった(左の画像が一例)。これが励みになってそれなり読み勧めることが出来たと思うのだが、積分と言うより集合を勉強したなと言う感慨が残る一方で、しばらく数学から離れていたくなった。人間、無理したらダメですね (´・ω・`) ショボーン
*1インターネットで講義資料などが配布されているので、それを読んで学習する事も不可能ではないようだ。例えば『「ルベーグ積分」の講義ノートPDF。測度論と確率論の入門(演習問題と解答付き)』にリンクがまとめられている。
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