2022年8月10日水曜日

メタアナリシスで効果が示唆されたからといって、マスクにCOVID-19予防効果があるかはまだまだ謎

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感染症専門医の忽那賢志氏がメタアナリシス分析のTalic, Shah, Wild, Gasevic, Maharaj, Ademi et al. (2021)などを参照して、マスク着用率の高い日本でSARS-CoV-2感染拡大が続いているにしろ、やはりマスクに感染予防効果があると主張している*1

忽那氏は「エビデンスレベルが高い複数の研究のメタ解析でも示されており、科学的に信頼性が高い」と言っているのだが、メタアナリシスだからと言って信憑性の高い分析になるとは限らない。メタアナリシスは、過去に行なわれた複数の研究の統計解析の結果を、一定のポリシーに従って集めてきて、統計的に統合したものだ。仮想的にサンプルサイズが大きい分析結果を得ることで、それぞれの研究の統計解析に入っている誤差の影響を小さくする効果がある。

このメタアナリシスはエヴィデンス・ピラミッドの頂点に位置する事になっているので、医療分野の研究者はどうもメタアナリシスの結果は盲目的に信じることが多い。しかし、メタアナリシスが統合する過去に行なわれた統計解析の結果に誤差ではないバイアスが入っていると、メタアナリシスの結果にもバイアスが入る。近年はメタアナリシスの手法も進歩して、出版バイアスなどの影響を評価したり補正したりする方法も発展しているが、ランダム化比較実験(RCT)以外、特に観察研究の結果を統合したメタアナリシスには注意が必要だ。

さて、忽那氏が参照しているTalic, Shah, Wild, Gasevic, Maharaj, Ademi et al. (2022)だが、手洗い、マスク着用、社会的距離のCOVID-19予防効果の測定を行なっている。結果は以下のinfographにまとめられているのだが、図の左側中段にRisk of biasがあってLowは0、Mediumは6、Seriousは2となっている。つまり、メタアナリシスで解消できないバイアスがそこそこ入った研究だ。この研究は限界をしっかり明示しているのでこれでよいのだが、読者の方は研究の限界を見落としてはいけない。また、相関は指摘しているが、因果は主張していない。

上述のRisk of biasはROBINS-I toolなるもので評価しており、内訳も出ている。残念ながらこの手法に詳しくないので信憑性は謎だが。

マスク着用効果に関してメタ解析されているのはランダム化比較実験1報*2と観察研究5報。当然、コントロールできていない共変量が存在する可能性は大きい。未知の共変量だってあり得るわけだから。なお、論文にはメタ解析に含まれない自然実験2報でも感染抑制効果があったかのように書いてあったが、ざっと見で確認した限りは自然実験を分析した論文には読めなかった。もう1つ言及されていた比較研究の方も、香港の中で感染が広まっている地域とそうでない地域を比較したもので、人々の予防意識などの共変量の存在は否定できない。

まとめると、マスク着用効果に関するメタ解析のTalic, Shah, Wild, Gasevic, Maharaj, Ademi et al. (2021)にはそこそこバイアスが入っている蓋然性が高く、根拠としてそう強いものではない。なお、マスク着用効果が無いことが示されたわけではないことにはなるが、あることも示されたとは言えないので注意して欲しい。

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