2022年2月9日水曜日

表現の自由と言う観点からの山田宏参院議員のポプラ社百科事典批判とフェミ議連のVTuber戸定梨香批判の違い

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自民党の山田宏参院議員がポプラ社が出している百貨辞典『ポプラディア』の「慰安婦」と「強制連行」の項目の記述が酷いので対応策を検討するとツイートし*1、ネット界隈の左派から非難を受けている。これに便乗して、ネット論客の青識亜論氏が、フェミ議連のVTuber戸定梨香批判を支持した左派は、山田宏参院議員のポプラ社百科事典批判も支持しなければならないと主張しているのだが、表現の自由と言う観点から見るとまったく異なる次元の話だ。

警察が交通安全PR動画から女性キャラクターの利用をやめたとしても、表現の自由を侵害したとは言えない。創作物の発表機会は無数にあり、官公庁の利用はごく一部の特殊な場に過ぎないからだ。広告業界ではコンペを行うことは多く、負けたアイディアは日の目を見ることはないが、表現の自由が侵害されたとは見なされない。そして、ここでの表現の自由は、政治のための言論の自由ではなく、幸福追求のための自由権の要素が濃い。

表現を理由に警察のVTuber採用に影響を与えるのが許されるのであれば、公共部門の調達を通じて民間の表現に間接的に影響を与えるのも許されるのではないかと言う反論があるようだが、調達する財(i.e. VTuber)の性質に表現が含まれる限りは、表現を理由にした調達の決定は、民間の公共部門が関わらない活動を阻害するとは言えない。成人向けマンガを出している出版社の教科書を、公的部門が採用しないとでもなれば、教科書の良し悪しで評価していないことになるので問題だが、VTuber戸定梨香の形状を理由にVTuber戸定梨香が交通安全PR動画にふさわしいか否か判断するのは当然だ。

山田宏参院議員の百科事典『ポプラディア』は官公庁ではなく民間企業の出版物であり、憲法で保障された言論の自由の中核的構成要素である。内容も、幸福追求のための自由ではなく、政治のための言論の自由が濃い。議員は「対応を検討します」としているが、政府が記述を変更させたり、出版をやめさせれば事後検閲となって、憲法違反となる。もちろん、民主制度を支える思想から考えても大きな問題だ。出版内容を理由に証人喚問や参考人質疑をしたり、行政や自治体に正当な理由なく同じ編集者や出版社の百科事典以外の書籍購入をやめるように指導しても抵触するであろう。議員からの抗議であるならば憲法違反とはならないが、議員が立法府の政府の構成員であること、今後の政治が言論抑圧的になる事を予感させることから、左派が批判するのは不自然ではない。

ただし、全国の公立図書館が百科辞典『ポプラディア』の購入を見送れば、百科辞典のビジネスモデルが成り立たなくなるので、事実上の検閲になると言う一部左派の批判は妥当ではない。表現の自由は、公立図書館に出版物が購入される権利ではないし、内容がハチャメチャな百科辞典もあり得るので選別はいる。過去にギリシャ文字などがランダムに配された解読不能な本が国立国会図書館に納入されて問題になったこともある*2。議員の行動が具体化して公共図書館の購入への圧力と言う問題になれば、VTuber戸定梨香の騒動と共通する問題にはなる。公共図書館の方がより政治的中立性に注意を払うべきであろうし、VTuberと百科辞典では公共部門への依存度が大きく違うが。

山田宏参院議員の百貨辞典『ポプラディア』非難は民間の言論の抑圧につながる可能性があるが*3、フェミ議連のVTuber戸定梨香批判は官公庁のメディア利用方針に影響を与えたに過ぎない。ゆえに、フェミ議連のVTuber戸定梨香批判を支持した左派が山田宏参院議員の百貨辞典『ポプラディア』批判を非難したとしてもおかしくはない。表現の自由戦士の皆様は、フェミ議連の意見に反対するだけではなくフェミ議連の行為を責めたいのだと思うが、類比する前に相違点を考えて欲しい。

*1以下のツイートである。確かに記述に問題があり、慰安婦の項は、朝鮮も占領地と読めるし(正確には保護国もしくは植民地)、強制連行の項は、募集の説明はあるが徴用と官斡旋の説明がなく、女子挺身隊として慰安婦を募集したという現在では完全に否定された説を記述している。

*2謎の高額本「亞書」 国立国会図書館が発売元に返却 代金136万円も返金要請 - ねとらぼ

*3苦情を言うぐらいは無問題であろう。

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