三次元グラフィックスをいじらなくなって久しいためか、四元数の存在すら忘れていたことがあり、せめて名前を記憶に留めるために手軽な解説本が欲しいなと思っていたのだが、『数の世界 — 自然数から実数、複素数、そして四元数へ』と言うちょうど良さそうな本が出ていたので拝読した。
数学のポピュラーサイエンス本らしく歴史の話からはじまって、群、体、環といった代数的構造や、完備といった概念を抑えつつ、自然数、有理数、無理数、複素数、四元数、八元数、分解型複素数について紹介する内容。中学生ぐらいで読めるように意識して書かれた本で、予備知識はほとんど要らないし、「演算が閉じている」と言うような数学方面の言い回しを説明してくれるし、写像と変換と関数の違いをはっきり説明していたりと、私のように頭の悪い人には助かる。数Kを構成するときは、積の大きさを保つ(i.e. |ab|=|a|⋅|b| where a, b∈K)ようにつくることが大事とか、そういうことが何となく分かるようになるし、リー群やリー環と言うモノが存在することを知ることができる。
他人に薦められる模範的な構成の本なのだが、残念なことに微妙な粗はある。まず、説明が抜けてしまった用語がある。ベクトルから説明しているのに直交の説明が無く、正射影と言う言葉も説明なくて出てきた(p.182)り、コンパクトと言う概念が説明なく出てくる(p.251)。直交は何となく、正射影は図を見れば分かり、コンパクトは終盤の発展的内容の紹介部分だから(この手の本の習慣として)読者を置いていっても良い気もするが、可能ならば説明を加えて欲しい。次に、1/(3+2i)は厳密には複素数ではなく、複素数3/13-(2/13)iと同値の記号(表記)と言う説明(p.77)が謎であった。明らかに自信を持って書いている部分でミスではないと思うが、検索した限りではこのような注記を他で見つけることはできなかった。少なくとも中高の教科書との乖離がありそうなので、根拠を示す脚注が欲しい。
全体的には四元数についてちょっとだけ知りたい人にはちょうど良い本。数物系にいかないと代数を真面目に勉強する機会も少ないが、この本の第6章ぐらいまでの話は知っておきたい。最後の章のsplit複素数/四元数/八元数は…物理学への応用可能性が説明されているわけだが…来世のトリビアとして役立つかなぁ(;´Д`)ハァハァ
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