2022年2月2日水曜日

日本の教育はダメじゃない — 国際比較データで問いなおす

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江口某氏の某教育学者批判*1で読むべしと薦めていた『日本の教育はダメじゃない — 国際比較データで問いなおす』の内容を確認したので紹介したい。PISATIMSSといった国際学力調査などによる外国との比較で、日本の中等教育までは少なめの勉強時間にも関わらず学力・いじめ・健康状態などは良好なグループに属していることなどを明らかにした上で、無根拠に日本の教育に問題があることを前提にして、外国のやり方を無批判に取り入れようとしがちなメディアや教育学者を批判した本。著者らの主張の限界なども正直に書いて良心的。

ネット界隈の議論でPISAのスコアなどはぼちぼち見るので半分ぐらいはどこかで知っていた感があったのだが、国外で日本の教育制度が注目されていると言うのは寡聞にして知らなかった。米国人スティグラーさんらの『小学生の学力をめぐる国際比較研究―日本・米国・台湾の子どもと親と教師』と『日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu』あたりの研究が紹介されているのだが、日本の子供たちは才能より努力と教えられることで、高い学力を得ている(pp.99–100)、日本の学校教育(数学)はアメリカやドイツと比較して発見的・思考的な課題を与えている(pp.101–102)、数学者と数学教師のチームによる授業の質の評価では日本が良くアメリカがダメと言うような主張が紹介されている。日本の中学校の数学、定理の証明を板書きしていたのをせっせと写したり、黒板で問題を解かされたりした記憶しかないのだが、米帝様は大丈夫なのであろうか。優秀な移民がやってくるから大丈夫なのか。

日本の教育研究者は欧米かぶれ福沢諭吉からのキャッチアップ精神があるから、無批判に欧米様に習ってしまう(pp.186–187)と言うのに本書の指摘に異論はないが、小学校における掛け算の順序問題*2、組み体操問題、中高での微分積分や線形代数の軽視、旧態依然とした古文・漢文が入った国語のカリキュラム、絶対的な英語学習時間の不足を無視した結果出てきたらしい英語教育における文法軽視、偽史「江戸しぐさ」を教えてしまう道徳*3など、色々と不安になってしまう事が多い日本の教育なので、日本は相対的によくやっていると言うより、外国はもっとヤバイところが多いと言う印象しか抱けなかった。何はともあれ、アクティブラーニングはもう下火で反転学習が盛り上がっているとか、むしろシンガポールあたりを見習うべきではないかとか*4、丹念にデータを見た上で視点を変えてみることを提案してくるのは適切な議論の仕方だと思う。

*1本田由紀先生の『「日本」ってどんな国?』は問題が多いと思う | 江口某の不如意研究室

*2関連記事:かけ算の順序にこだわる教師と出版社の皆様へ

*3関連記事:オカルト化する日本の教育—江戸しぐさと親学にひそむナショナリズム

*4シンガポールは極度なエリート主義でアホは学ばなくてよいぐらいのノリだったりするので(関連記事:開かれた独裁国家が分かる「物語 シンガポールの歴史」)、そんな事を言われたら困ると思うかも知れないが、教育方法の教育効果の測定をチマチマやっていて、教員の待遇も良いそうだ(The Economist)。日本も授業研究をしているが、現場教員の感覚に頼っているところがあるので、統計学的手法を用いた手法評価も取り入れてもよいかも知れない。

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