2022年1月1日土曜日

日本の移民問題を語る上で必読の本『ルポ技能実習生』

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昨年の夏にフリー記者の澤田晃宏氏の『ルポ技能実習生』を読んで紹介しようと思って放置してしたのを思い出したので、感想を記しておきたい。

アメリカほどではないが戦後の日本には在日韓国・朝鮮人、日系ブラジル人などの様々なエスニシティが入り込んでおり、日本も移民問題とは無縁ではない。最近は、外国人技能実習制度を通し、中国人やベトナム人が日本社会の重要な構成員となっている。本書は、日本の移民問題を議論するのに避けては通れないこの外国人技能実習制度という移民受け入れシステムに焦点をあてた本だ。

移民関係の本は色々と出ているのだが、抽象化されてやや具体性に欠く議論になりやすいので*1、そうではない本を読みたかったのでよかった。

社会問題の議論は、些事にこだわって全体が見えないものと、無理に抽象化を試みて戯画化してしまい非現実的なものの二つに分かれがちなのだが、移民問題は後者。統計や世論調査だけでは実態を捉えられず、計量分析もその前提で結論が大きく変わりがちだ。もちろん慎重に議論している人もいるのだが*2、往々にして学者の意見も単なる偏見の開陳になっている*3。まずは、移民や移民に関わる人の話を聞いてから、本格的な分析をして欲しい。そうでないと、異世界の話になってしまう*4

前置きが長いが『ルポ技能実習生』は、この用途に応えた本だ。外国人技能実習生だけではなく、脱走した元技能実習生や、外国人技能実習生の受け入れ先や送り出し元など多方面を取材していて参考になる。社会科学方面から重要になるポイントも抑えていて、外国人技能実習生の労働環境は、外国人技能実習機構が非営利法人の監理団体に委託しているのだけれども、この監理団体のお偉いさんがキックバックを貰ったり(どうも買春接待を受けたり)していたりするケースがあってモラルが疑わしいような話がしっかり書いてある。理論的にはよくあるエージェンシー問題ではあるが、こういう話があると言うのが示されないと、ただの妄想扱いされてしまうので重要だ。なお、単によく取材をしていると言うだけではなく、技能実習法がどのようなつくりになっているかの説明もある。問題を多角的に把握しているから、ポイントを抑えた取材が出来るのであろう。

著者は今春の出版を目指して続きと言うか特定技能制度の取材をしているそうなので、それが出る前に本書を予習しておこう。ところで本論に関係の無いところ(p.15)だが、大臣以上は世襲率が高い気もするものの、代議士全体の世襲率は低下しているとか何とか。

*1関連記事:社会学方面で移民をどう考えているか分かる『移民と日本社会』

現場の声や、個人の体験談も知っておきたいと言うだけで、全体を俯瞰するアプローチが悪いと言っているわけではないので悪しからず。

*2現実はこんなもんだよねと納得できる『移民の政治経済学』

*3関連記事:“オレの考えた最強の移民政策選手権”だった『移民の経済学』

*4在日韓国・朝鮮人問題だと、在日の人々の来歴、個人史の類例を整理することなく、来歴を想像することによって、問題を大きくミスリードしている人々がいる(関連記事:はてサが読むべき『在日・強制連行の神話』)。

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