2020年5月29日金曜日

専門家会議が4月15日に示した基本再生産数R₀=2.5で死者42万人と言う予測はほどほどのざっくり感

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4月15日に、このまま人々の行動変容が無ければ、SARS-CoV-2感染者数が指数関数的に増加して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡者数が42万人に達するという予測が、専門家会議から示されていた*1事に関して、(1)現実化しなかった、もしくは、(2)過大な予測であったとと言う批判を見かけるのだが、(1)は頓珍漢だし、(2)は厳しすぎる要求に思える。

(1)に関してだが、人々の行動変容は確かにあったわけで、予測通りの結果が出る理屈は無い。3月末から飲食店などは営業自粛に追い込まれていった。川で泳いだら溺れる可能性があると注意を受けて川で泳ぐのをやめた人が溺れなかったとして、注意した人が責められるのはおかしい。また、指数関数的な増加は無かったと言う批判も見かけるが、3月下旬から4月上旬までの新規陽性者数の増加は指数関数的な軌道に確かに乗っていた。

(2)に関してだが、全人口の6割が感染し、死者42万人になると言う専門家会議の西浦氏の予測値は大げさなものであったであろうか。人々の行動変容があったために結果から妥当性は確かめられないが、3月下旬にざっくり問題の大きさを予測しろと言われたときに、この数字が小さめとも言えることに注意したい。

まず、R₀だが、3月1日から4月14日の東京都の感染者数を用いて単純推定すると2.529となる*2。特に、22日以降は急激な増加が見られている。当時、既にソーシャルディスタンスは呼びかけられていた。R₀は4.0から6.0とも言われており、2.5は控えめな数字である。西浦モデルでは実効再生産数R₀=1.7程度の数字になっていたわけだが、感染予防に飽きてきたり、4月から新生活がスタートする事などから、R₀の推定量が上ブレする不確実性はあった。学術論文であれば立てたモデルからの予測値を使わないのは意味不明なのであるが、厳密に一貫性を取らないといけない場ではないはずだ。

国外で感染してきた帰国者がいたのでR₀が高く推定されていたと言う批判もあるが、R₀は国内で生じた二次感染者数の数字であるし、国内感染者数の方が圧倒的に多い。5月27日時点で累計で1万6498名のPCR検査陽性者数がいるが、うち空港検疫は170名、武漢からのチャーター便帰国者は15名となっている。R₀の推定から国外感染者を除外するのは被説明変数を減らせばすむので実際にやってみても、ほぼ影響は無い。観光客が減ったためと言う話もあるかも知れないが、観光客からの二次、三次感染がなければ感染者クラスターなど形成されない。“夜の街”で感染者が増えていたと言うクラスター対策班の追跡調査からの判断とあわせて考えれば、海外からの流入説は説得力を持たない。

次に、西浦氏は年齢階層別の死亡率を用いているが、予測死亡者数は、感染者死亡率(IFR)は0.6%程度になる計算になっている。これは、中庸な数字だ。IFRは0.3%~1.0%ぐらいと言われていた。また、感染拡大によって医療サービスが機能不全に陥り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者やその他の患者の死亡率が引きあがる可能性も考慮されていない。

SIRモデルでの予測が不適当であり、とくに再生産数の不均一性を考慮すると、集団免疫獲得時点での累積感染者数が何割か下がると言う指摘もあるが、それが経験的に正しいかは現時点では分からないので、シンプルな推定を選んだとして瑕疵とは言えない。そもそも、費用便益分析などにかけて対策が選択されたわけではなく、収束に必要な免疫獲得者が60%だったのが40%になり、死者42万人が28万人に下方修正されたとしても、取られる施策は同一であった。予測が死者4万2000人になれば話は変わったかも知れないが。日本の年間の肺炎死亡者数は12万人前後だ。

複数のR₀と複数のIFR、場合によっては複数の予測モデルを用意して、複数の可能性を示した方がよかったと思うが、専門家会議が3月下旬に示したR₀=2.5で死者42万人と言う予測はほどほどのざっくり感はある。何がR₀≒Rₜを定めるのか考えずに、単純にR₀が昼間人口密度や移動量に比例すると見なしてひたすら活動自粛を要請していたことの妥当性については懐疑的なのだが*3、このざっくりしたバッドエンドの状態予測は責め立てても仕方が無いように思える。

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