2020年5月9日土曜日

出勤を減らしたことによって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染リスクはさほど減っていない

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厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授ら専門家会議は、都市中心部の昼間人口を減らすことにより「接触機会の8割削減」を実現し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染者1名あたりの2次感染者数である実効再生産数Rₜを0.5にまで引き下げることを目標に掲げている。そのために通勤を抑制してリモートワークを訴え、携帯電話端末の位置情報の集計などから中間目標が実現されていないと主張しているのだが、中間目標と最終目標にどうも乖離が大きい。少なくとも、2月から4月までのデータではそうだ。

滑らかな基本再生産数R₀(≒Rₜ)の推定結果を模索していたら、専門家会議のRₜと似た動きになるモノができた*1ので、東京都のR₀とGoogleが提供している滞在時間の集計値*2の東京都の時系列変化を比較してみたのだが、ほとんど関係がない。交通機関や小売や娯楽施設など6種類のデータがあるのだが、多重共線性があるのでオフィス滞在時間だけ見てみよう*3

オフィス滞在率がだんだんと減少していく一方、ほぼ関係なくR₀が動いている。通勤で感染が広まった事を示唆する報道は無く*4、職場などで感染が広まった報道も明確なのは少ない*5ので意外でも無いのだが、リモートワークを頑張っていることは、少なくとも今までは感染防止に大きくは寄与していない。これは、手洗いを徹底する、2m離れて会話する、食事を一緒にとらない等のほどほどの予防策をとっていたら、多くの人にとって通勤が感染者を増やす確率は十分低いことを示唆する*6

“接触”ごとに一定の感染確率があって、“接触”回数を減らせば感染可能性を下げられ、人口密度を落とせば“接触”回数が減ると言うのは数理モデル上は自然な発想だが、“接触”とされる行為の重み付け、もしくは、人口密度と“接触”回数の関係が雑すぎることになっていないであろうか。口角泡を飛ばすような会話が、3歩離れてマスクをしてするようになったとしても、人口密度は変わらない。朝、従業員は検温をし、発熱がない場合のみ出勤するようなルールにした職場は、集団感染リスクを大幅に下げられるであろうが、人口密度にはさほど影響はしない。

携帯電話端末の位置情報の集計などから昼間人口を割り出しても、それがRₜにさほど寄与していない場合、中間目標として重視する意味が無い。もう少し、費用対効果の高そうな施策を呼びかける方がよいのでは無いであろうか。

*1関連記事:東京都のSARS-CoV-2基本再生産数の時系列変化を計算したら、専門家会議のと似た数字が出来た

*2COVID-19 Community Mobility Reports

*3公園などの滞在時間(Parks)とオフィス滞在時間は相関が低い。

*4一ヶ月以上経っているので情報が更新されたかも知れないが、西浦氏も4月9日に「車内伝播は相当に運の悪い状況ではないかと思います」と言っていた。

*5同一職場での集団感染事例を見ると、職務遂行中ではなく、昼食などを介して感染が広まったように思えるものが少なくない。大津市役所の都市計画部と建設部の職員11名の集団感染は、感染経路や感染源が不明とされたが、確認する限りは同じフロアにいたはずの女性職員の感染者がいない。高松市立鬼無保育所の集団感染では、職員11名、園児2名となっており、職務上必要な“接触”によって感染が広まったというよりも、職員間の交流が感染経路になったように思える。富山県富山市の小学校の感染事例でも、座席が隣の子供に感染が広がらなかったことから、校外感染の可能性が高いとされている(福島新聞)。共栄工業山梨工場の4名の感染者も、感染者同士の社内での距離が近いという報道はなかった。出張やゴルフなどでの感染事例も、対面での食事が媒介している可能性が少なくない。

*6ほとんどのオフィスにまだ感染者が潜り込んで来ていないので出社を控えても無駄だったと言う解釈もできるが、感染者の年齢分布を見ると会社員などが多い一方で、それらのオフィスで病院や介護施設のように感染が広まっているわけではない。

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