2019年4月23日火曜日

高校教育で線形代数が復活するかも知れない

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統合イノベーション戦略推進会議の有識者提案を受けて、日経クロステックの浅川直輝氏が日本の数理教育や産学連携の失敗を綴っている*1。高校の学習指導要領から線形代数が消えたことがよく非難されているが、記事にあるように「行列やベクトルの概念を知らない大学初年度の学生に…の原理をどう教えるか」言う問題が生じうる*2ことになっている。

これに反応してネット界隈では大喜利が披露されていたのだが、とにかくAIと要っておけば何かしている感が出るだろうと思っている風の第4回の会議資料の「AI戦略(有識者提案)及び人間中心のAI社会原則(案)について」の「教育改革に向けた主な取り組み」(p.6)の「高校における教育の充実」で「確率・統計・線形代数等の基盤を修得する教材」と言う表現があるので、高校教育で線形代数が復活するかも知れない。議事録を読まない限りは期待が持てる。「基盤」が意味するところが謎ではあるし、次の指導要領の改訂までに皆さん忘れていそうなので淡い希望ではあるし、人工知能ドリブンで線形代数の学習を一般化しようとすると無理があるが。

すべての人々が人工知能のトップノッチになるわけではない。浅川氏の記事に「メルカリのAI戦略を担う木村俊也エンジニアリングディレクター」の「AI技術そのものよりも、AIに学習させる実データがどこにあるか、AIをプロダクトにどう落とし込めるかを担える人材が実は不足している」と言葉からすると、産業界が求めている人工知能がわかる人の基準において、ベクトル解析から機械学習を説明できることは求められていない可能性は高く、線形代数も不要知識かも知れない。実際、ブラックボックスの機械学習ライブラリにデータを放り込んで出力を加工できれば、人工知能を利用できる。3Dゲームプログラミングと言ってもUnityを使っているので線形代数の知識はほぼ要らないと言うのと同じ状況。

また、一過性のブームと結び付けすぎるとブームが去ったときの反動が来る。現在は第3次人工知能ブームと言われるが人工知能研究は何度もブームと衰退を繰り返しており、今回もそうなる可能性は低くは無い。振り返れば着実に進歩はしているのだが、進歩のペースが産業界が期待するほどではなかった。そして、今回は例外とも言えないようだ。風の噂では頭文字をつなげてよばれる米IT企業でも、ディープラーニングを含む機械学習の収益貢献はほとんど無い*3。有識者提案では統計解析を含むデータサイエンスと表記されており、人工知能ブームと一緒に終焉しない可能性もあるが、読んだ人の大半は人工知能にしか目が行っていない。線形代数は応用範囲が広く、ちょっと気の利いたことを学ぼうと思うと必ず立ちはだかるモノで、人工知能はその利用先のごく一部でしかない。人工知能に限らず広く使われているのだから、学ぶ機会をつくると言う風に正当化する方がよい気がする。いや、もちろん、統合イノベーション戦略推進会議に出席する大臣のような偉い人々へのインパクトが欠けると言うのも分かるのだが。

*1衝撃のAI人材25万人育成計画、裏に2つの「失策」:日本経済新聞

*2慣れの問題もあるので学生にはつらいことになっているかもだが、一般教養で線形代数を履修させた上でベクトル解析を教えればよく、実際、そういうカリキュラムになっている。

*32018 AEA Continuing Education WebcastsでSusan Athey氏がそう言っているそうだ。

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