2019年3月9日土曜日

MMTが誤解されるのは、根拠と主張の乖離があるから

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オカシオコルテス下院議員が非主流派経済学MMTの信奉者だと言う話が広がって以来、メディアなどでMMTが取り上げられる機会が増えているのだが、MMT信者の人々がメディアのMMT理解がおかしいと憤っている。確かに、ロイターの記事*1あたりは私が知る限りでも多くの誤解がある。しかし、MMTの教祖と信者が招いた現象のようにも思える。

非定型の誤謬推理に、根拠と主張の乖離(Non sequitur)と言うものがある。前提から演繹できない結論を主張する支離滅裂な主張、理由になっていない理由のことで、どうもMMTの信奉者の多くはこれを自覚なしでやっている。そもそもMMT信者の人々が、MMTの主張が何であるか把握しているのかすら怪しいところもある。

経済学者のスコット・サムナーが、ノーベル賞受賞経済学者のポール・クルッグマンのMMT批判に対するステファニー・ケルトンの返答を「その思想について明確な説明を与えることができないというMMT派の長き伝統」と評している*2が、インフレにならないように利上げをしたら国債の利払いが大変なのでは? — 中央銀行が金利を下げられる…と言うやり取りで噛み合っていない。

ケルトンはクルッグマンに、累積債務に関わらず均衡実質金利はゼロと答えるべきであった。均衡と言う言葉を使いたくなければ、金利とインフレーションには因果関係はないので、中央銀行は好きな名目金利を維持できると言えばよいであろう。MMT教祖Mitchellは"The natural rate of interest is zero!"と明言しているが、いつもこれぐらいはっきりと主張してくれれば話が早くなる。

かなり強い前提なので、同意してくれる人は少ないであろう*3。MMTの考え方に基づけば、低金利だから住宅ローンを組もうと考える人々は、この世にいないことになる。時間選好が無いことになるので、新しいモノを早く楽しみたいと考える人々も、この世にいないことになる。しかし、古い学者の名前を並べて煙に巻くような返答よりはずっとマシだ。

MMTが数理モデルの構築を怠っているので、MMT教祖の見解が完全には一致していない事が、歯切れを悪くしている面がありそうだ。教祖Mitchellが1960年代以降のスタグフレーションの時代で失墜した古いケインズ経済学を修正し、公共投資の方法を改善すればインフレーションなき完全雇用が実現できることに力点を置く*4一方、教祖Wrayはミンスキーの金融不安定性仮説を強調することを怠らない*5

MMT信者も煙に巻かれている。資金循環統計のバランス制約、信用創造や貸付資金説の否定に力点を置いて、主流派マクロ経済学を否定しようと躍起になっているのだが、MMT教祖のそれらに関する主張は主流派マクロ経済学の前提には影響しないので空虚なものになっている。現金性資産保有の限界効用が逓減しない*6、失業率に関わらず長期のインフレ率は一定*7と言う前提を明らかにする方が、MMTと主流派の相違の理解には役立つのだが。

*1焦点:財政拡大理論「MMT」、理想の地は日本か | ロイター

*2スコット・サムナー「魔法の杖は振れないのだよ」 — 経済学101

*3ただし、主流派とされる人々の間でも、長期停滞論として均衡実質金利が負である可能性が議論されている(Eggertsson and Mehrotr (2014, 2017))。

*4私が理解できる限りでは、以下のような話を展開している。教祖Wrayもこれは概ね同意しているので、MMT教祖たちの共通見解と言えるであろう。

なお、以前のエントリーに作った図から修正をしている。

*5教祖Wrayはバブル回避のために財政赤字を出せと言っていたりするのだが、教祖Mitchellはミンスキーの金融不安定性仮説について懐疑的なようである:"Hyman Minsky was not a guiding light for MMT | Bill Mitchell – Modern Monetary Theory"

*6MMTの専売特許ではない。阪大の小野善康氏の『貨幣経済の動学理論』の第8章が、この仮定を前提に組み立てられている。もちろん、主流派の作法にのっているし、自然利子率はゼロとはされていない。

*7教祖Mitchellの"Unemployment and Inflation – Part 10"の議論からすると、“自然失業率”は実際の失業率に近づいていくことになっている。

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