2019年1月19日土曜日

好景気に緊縮反対を訴える人々が見えていないモノ

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バブル期以来の高雇用で、上場企業の利益も2016年、2017年は過去最高益を記録したのに、緊縮反対を訴える人々が、「薔薇マークキャンペーン」なるものを展開している。ばら撒きの駄洒落で薔薇マークと言うのはどうかと思うが、それはさておき趣意書を拝読してみたのだが、色々と見えていない事、もしくは見たくない事が多いようだ。発起人らしき人々は何度か目にしていることなはずなのだが、一応、指摘しておきたい。

1. 細かい問題

「社会保障の充実」がされていないと言うのは、財政政策に関する基本的な経緯を認識していない。1991年度に12兆円だった一般会計予算の社会保障関連費は、2018年度に33兆円になった。1991年度の歳入規模にあわせれば、社会保障関連費を3分の1にしないといけないが、増税と他の歳出項目の削減により社会保障関連支出を維持しようと言うのが「社会保障の充実・安定化」である*1

「法人税を引き下げてきた」と言うのは、2012年度から2017年度までの段階的法人税率引き下げのことを指すと思うが、外形標準課税の拡大など課税ベースの拡大があるため、最高税率ほどは減税されていない*2。景気回復もあって、法人税収自体は増加している。リーマン・ショック直前の数字と比較すると、何兆円分の減税にはなったと思うが、その程度である。

「個人消費も伸び悩み」とあるのだが、医療や介護サービスの需要増加を考慮していない。家計最終消費支出を見ると伸び悩んでいるとも言えなくもないが、政府の社会保障給付を足した現実家計最終消費を見ると増えている*3。若い頃は耐久消費財を買ったり遊行を楽しんでいた人々が、年老いて入院したり介護の世話になったりするようになったと言うこと。高齢化社会、消費パターンも変わって来ることには注意したい。

「強者から優先的に税金を取る所得再分配の考えに立ち返ること」は、1980年代からの所得・法人減税について指摘しているのだと思うが、これも高齢化の影響を無視している。現役世代内の所得分配を考えれば、累進的な所得税や法人税は機能するのだが、現役世代と引退世代の間の所得分配では上手く機能しない。引退世代、貯蓄や資産があっても所得はそんなに無いからだ。公的年金控除を廃止して年金に課税すると言う手もあるのだが、消費税で一律にとって現役世代に給付するか、所得税率引き上げを抑える方が、現役世代の利益になる*4

「フランスでは”黄色いベスト”運動が増税をストップさせました」とあるのだが、フランスの完全失業率や税率を調べる事をお勧めしたい。フランスの国民負担率は7割弱、租税負担率は4割。日本は4割強と3割弱*5。財政赤字のGDP比もフランスは3%を超える程度、日本は4%程度だ*6。フランスの完全失業率は2018年8月は9.3%で、リーマンショック後も低下していない。「フランスも日本と同じですね」とフランスの失業者に言ったら、ぐーで殴られると思う。他国の事例を持ってくるのはよいのだが、もうちょっと当該国の経済状況・経済制度に配慮するべき。

2. 大きな問題

一番に歳出削減を非難するのではなく、増税回避と減税を主張するのはどういう事であろうか。増税回避のための歳出削減で社会が疲弊しているように思えるのだが、増税反対派の人々にはそれが見えていないようだ。社会活動家の湯浅誠氏の『財源は「なんともならない」と知つた2年間』のように政府内部の予算獲得状況からそれを指摘している声もあるのだが、緊縮反対を訴える人々の耳には届かない。

最近では、低所得者対策と言う方便で導入された軽減税率の財源に、低所得者向けの総合合算制度の導入見送りや、社会保障費の見直し(という削減)が含まれていた*7ことを思い出して欲しい。増税反対派がよく言及する「経済政策で人は死ぬか?」でも、歳出削減による悪影響は強調しているが、増税自体が災厄を巻き起こしたとは書いていない*8。むしろ国民負担を増やしつつも福祉水準を大きく下げなかったアイスランド*9が評価されている。削減されるのは福祉予算だけではない。科学者が国立大学の運営予算や科学研究費に十分な予算が無いのを訴えるのも、ノーベル賞受賞者が出たときのお決まりの光景になった。

財務省だけではなく国会議員も含めて、財政赤字が引き起こすと考えられる高めのインフレは経済の混乱をもたらし経済成長の阻害になると理解しているし、保有資産における現金と預金の割合が大きく住宅ローンなどは組めない貧困層の経済厚生を大きく引き下げることもたぶん知っている。財政赤字はインフレなしに無限に出せるとは思っていない。増税回避と減税を主張することは、図らずとも歳出削減をもたらすことになる。

現実的に目の前にあるのは、増税と社会福祉の維持と、減税と社会福祉の悪化、どちらが良いのかと言う選択で、緊縮反対を訴える人々は後者を選択しようとしているのだが、本当にそれでよいのであろうか。まさに社会的弱者を殺す経済政策なのだが。

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