2018年4月11日水曜日

マンガのコストパフォーマンス

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ポモ思想家東浩紀氏の「マンガは、消費者の時間の観点から見るとかなり『コスパの悪い』商品」と言うのが話題になっていた。「マンガは圧倒的に速く読める」から、時間あたりの費用が大きくコストパフォーマンスが低く、それが大手海賊版サイトの出現の遠因になっていると言う主張になっているのだが、時間潰しだけがパフォーマンスではないし、費用を下げても大手海賊版サイトへのアクセスが減る理屈が無いので、なかなか粗雑な議論である。

低費用で時間を潰したいのであれば、寝てしまうのがもっとも費用は低く済む。寝られない場合でも、数学書のように理解するのに時間がかかるものを読んでもよいし、語学のように繰り返しトレーニングをするものを読んでも聞いてもよい。しかし、大半の消費者は、もっとお金がかかる行為を選択する。その方が愉しいからだ。また、予算制約など時や状況によって選択できる娯楽は変化する。

マンガと他の娯楽では愉しさに差が無い一方で、マンガの方が費用がかかると言う議論であれば分からなくもない。ゲームやSNSなどの他の娯楽の出現は、マンガへの渇望を低下させた。しかし、この議論では「かつて書籍の価格はモノの費用で決まっていた」と言うよりは、かつてマンガは隙間時間に愉しめる娯楽として独占的地位を占めていたので、高い価格設定で消費者は我慢していたと言うことになる。「情報が独立して売買可能になる」ことも意味がなくなる。

消費者が不法ダウンロードや新古書店やマンガ喫茶などを好むのが、マンガが「適正価格」ではないからと言うのも無理がある。機会費用を含める必要もあるが、マンガから得る便益が同じであれば、消費者にとって費用は安い方が望ましい。大手海賊版サイトの閲覧費用はほぼゼロであり、書籍の価格設定に関わらず大手海賊版サイトが好まれる事になる。

東浩紀氏が漠然と考えている問題は、コストの方ではなくパフォーマンスの方ではないであろうか。書籍としてマンガの収集癖がある人は、不法ダウンロードでは満たされず、書籍を購入することでしか便益を得られない。書籍では無く情報としてマンガを捉えるようになると、書籍購入のパフォーマンスは減退することになり、大手海賊版サイトと同パフォーマンスになる。

ところで「数学女子」と「寿司 虚空編」は単行本を買って飾っておこう。

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