2017年11月3日金曜日

コチャバンバ水紛争は民営化が悪い事例にはならない

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

新自由主義やグローバル化を嫌う人々が、1999年から2000年に南米ボリビアで起きた水道事業の民営化に対する反対運動コチャバンバ水紛争を引き合いに出して、水道事業の民営化に反対しているのを見かけたが、日本での議論の引き合いに出すのは無理があるので指摘してきたい。コチャバンバ水紛争は、外資系民間企業への水道事業の売却が、反対運動の激化により撤回された事例で、確かに成功事例ではないのだが、水道の安定供給に失敗した事例でも、料金高騰を招いた事例ではなく、行政の狙いを住民が理解できなかった事例であった。

民営化がはじまる前から、コチャバンバ市の水道事業の状況は惨憺たるものである。技術的・予算的な問題から上下水道の普及率は半数に届かない程度で*1、24時間の給水は実現しておらず、漏水率も高い。水道普及率が低いので、貧困層はタンク車を使って水を運んでくる水販売業者から、不衛生な水を単位あたり富裕層の何倍ものコストを払って買っている。国際機関は水道料金の引き上げ勧告(full-cost pricing)を出しているが、住民の料金負担の引き上げと外国からの技術導入は状況の改善に必要である。

水道事業を譲渡された英米系資本の傘下のトゥナリ社は、平均35%の水道料金の引き上げとは言え、貧困層に安く富裕層に重い料金体系を導入し、水道メーターの設置で料金徴収の公平性に配慮する施策を行なった。穏当な施策だったと言える。10%程度の値上げでも貧困層の支払い能力では無理が出ると言う指摘もあるが、そもそもほとんどの貧困層は水道を引いていない。トゥナリ社に収益が出ることが批判されていたが、経営能力を含めた技術導入の対価になるし、公営のままでも設備を新設すれば外国企業に利益は行く。為替レート連動の料金改訂権も批判されていたが、南米のインフレ率を考えれば当然とも言える契約条項になる。

水道の普及が市民の厚生を改善することを考えれば、そんなに悪い契約では無い。住民の理解が得られたのであれば、しっかり機能した可能性は高い。何が拙かったのかを考えると、水道事業の改善プランを住民が理解していなかった事であろう。水道を使っていない人までも、水道料金の値上げで暴れたようだ。公営のままだと水道料金引き上げには政治的に厄介な合意形成が必要なので、民営化のどさくさに紛れて実行してみようと言う意図があった気がするのだが、民営化にも合意形成は必要なので同じであった。価格政策も、いきなりではなく段階的な料金引き上げを行なう方が良かったであろう。

コチャバンバ水紛争は政治プロセスの問題であって、水道事業の民営化の失敗事例ではなかった。上下水道の民営化に賛成する立場ではない*2し、民営化が上手く行く証拠にはならないが、日本での議論の引き合いに出すのは無理があると言わざるを得ない。なお、コチャバンバ水紛争の経緯については、Nickson and Vargas (2002)などを参照した。

*11999年の普及率の数字を探したのだが見つからなかったので、「2009年の事前評価時、給水事情は非常に逼迫していた。給水普及率は48%に過ぎず、将来的な水需要の増加が見込まれるなかで上水道施設の整備は急務」と言う記述が1999年にも当てはまると見なしているが、コチャバンバ水紛争の後、水道事業は悪化したと考えられるので、普及率はもう少し高かったかも知れない。

*2関連記事:上下水道の民営化をするとどうなるか?

0 コメント:

コメントを投稿