2017年11月30日木曜日

福島の甲状腺がん検診についてあれこれ言う前に

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福島第一原発の災害・事故による放射性物質の流出による被爆の影響を見るための、高性能エコー診断システムによる甲状腺がん検診の是非について、あれこれ議論があるようだ。週刊誌のアエラが、甲状腺がん検診を打ち切ることで、東電の損害賠償額を小さくしたがっていると言うような陰謀論を報じている*1のだが、似たような話を信じ込んでいる人々をネット界隈で見かけた*2。あれこれ言う前に、常識的な話は確認しておいて欲しい。甲状腺がんの過剰診断はNHKドキュメンタリー*3でも報じられている内容で、世間にそう誤解が広まっているとは思わないのだが。

2017年11月28日火曜日

アイヌの歴史は17世紀からではない

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Yahoo!ニュースの「アイヌとして生きる若者たち――薄れゆく民族意識の中で」と言う記事の出だし部分、「アイヌ民族。17世紀ごろより東北地方の一部から北海道、旧樺太(サハリン)などに定住し、自然とともに生きてきたとされる」が大嘘だと、ネット界隈で突っ込まれている。2つの意味で間違いがあって、アイヌは17世紀に他地域から流入してきたわけではなく、北海道やシベリアに住んでいた人々が10世紀に確立したエスニシティになる。

2017年11月25日土曜日

未来のワクチンは伝染していく

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ワクチン接種は感染症に対する有効な対策だ。天然痘は極めて死亡率の高い病気であったが、18世紀にエドワード・ジェンナーが牛痘接種法による天然痘ワクチンを発明し、1977年を最後に根絶された。地球上から根絶に至らなくても、風疹、ジフテリア、破傷風、百日咳、麻疹などの感染者数を劇的に抑えている事は間違いなく、広く接種されているワクチンの効能を疑う必要は無い。

2017年11月22日水曜日

インフルエンザ・ワクチンが効かない年がある理由

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スペイン風邪以来怖れられているインフルエンザ対策と言えばワクチン接種だが、実は効き目が毎年違う。なぜならば、流行のインフルエンザ株にあわせたワクチン製造に失敗する事があるからだ。その事情が、POPSCIで説明されていた。

突然変異を繰り返すインフルエンザ・ウイルスには、毎年同じワクチンは通用しない。国立感染症研究所のウェブページには、毎年のインフルエンザワクチン株がリストされているが、その4種類の組み合わせは確かに毎年変わっている。ワクチン生成をする前に、流行のインフルエンザ株を特定しないといけない。

2017年11月20日月曜日

サンフランシスコの従軍慰安婦像の残念なところ

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サンフランシスコの従軍慰安婦像の公有化問題で、大阪市長がサンフランシスコ市との姉妹都市を見直すと息巻いている。ネトウヨの皆様も、概ね、不愉快に思っているようだ。議会の決定に対して市長が拒否権を出すように、大阪市が圧力をかけている*1。その政治的影響力の無さを考えると*2、銅像など兵馬俑のように建ててもらって問題は無いのだが、過去の人身売買取引を非難する像としては、まだまだイマイチな所がある。

2017年11月15日水曜日

タックスヘイブン対策税制はそこそこ機能している

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租税回避地の利用者リストであるパラダイス文書が話題になっている。この手のタックスヘイブンが話題になるたびに高収益の国際企業の節税行為が問題視され、税制の見直しがされて来ているのであるが、某大手携帯電話/コンピューター製造販売者のように毎回、槍玉に挙げられる企業も存在する。これまでの国内法や国際協調BEPSなどの規制強化は意味が無かったのであろうか。報道されている限りは、そういうわけでは無さそうだ。

2017年11月14日火曜日

ふらふらとした韓国の外交政策は必然

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韓国の文在寅大統領が中国と交わした、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の追加配備を行なわないこと、米国のミサイル防衛構想(MD)に参加しないこと、日米韓で軍事同盟を構成しないことの三つの合意に関して、さすがに米国メディアも異常に感じたのか、文氏に批判的に報道*1を行なっている。米韓首脳会談での共同声明*2と合致しない内容になっているからだ。しかしこれ、文氏が悪いと言うよりも韓国の世情を反映したと考えた方が良い。文氏の支持率は高い水準を維持している*3からだ。

2017年11月12日日曜日

医療は病人を増やしている

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医者が増えると患者を増やすと言う話*1もあるのだが、それとは別に、病院や製薬などを含む医療システムは、地球温暖化ガスを大量に排出しており、それが病人を増やす事になっているそうだ(POPSCI)。

2017年11月11日土曜日

米国の大学でもサークルでウェーイやっていた方が稼げるようになる

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米国の大学にはフラタニティと言う男子学生の社交サークルがあって、急性アルコール中毒などの事件を引き起こすので、参加している学生の保護者は眉をひそめている。しかし、ガリガリと勉強だけしているよりもサークルで遊ぶこともした方が、その後の人生のためには望ましいかも知れない。そんな研究が紹介されていた*1

2017年11月10日金曜日

大学進学率を上げる社会的意義は小さいかも知れない

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開発援助畑の畠山勝太氏の「大学生は多過ぎるのか、大学に行く価値はないのか?」と言うエッセイが流れて来たのだが、読んでいて気になったところがあるので指摘したい。

畠山氏は、大学教育への公的支出を、大学教育は労働生産性を改善する人的資本蓄積効果が大きく、改善しないシグナリング(スクリーニング)効果は小さいとした上で、社会的利益(外部経済)と流動性制約や保護者の無理解による過少教育投資の存在から、「経済発展のための人的資本投資」として正当化できると主張しているのだが、その証拠になる統計を示せていない。

2017年11月9日木曜日

MV-22オスプレイの事故率急上昇への有効な対策は

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普天間基地の辺野古移転。

MV-22オスプレイは危険と言われつつも、10万飛行時間あたりの死亡もしくは機体全損のクラスA事故率が低かったが、ここ1年間に3度のクラスA事故が生じたために、クラスA事故率が急上昇するに至った。2012年の1.93から3.27に跳ね上がり、海兵隊全体の2.72よりも高い数字となった(朝日新聞)。ただし、中身を見ていくと心配すべき機体の不具合は無く、市街地上空を移動していて生じるような事故は起きていない。

2017年11月8日水曜日

待機児童解消と幼児教育無償化は平行して実行される事になっている

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NPO団体代表の駒崎弘樹氏が「幼児教育無償化は、幼稚園業界への利益供与か」と言うブログのエントリーで、幼児教育無償化だけではなく待機児童解消にも施策が必要だと主張している。しかし、安心して欲しい。政府によるとだが、駒崎氏の願いは叶う方向だ。

2017年11月7日火曜日

太平洋戦争は自衛戦争だった論に欠けているモノ

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気づかないうちにネトウヨの皆様の間で、太平洋戦争は自衛戦争だった論が展開されているらしい。米国の対日経済制裁によって苦境に立たされたので、対米開戦をせざるをえなかったと言うのが、その理屈だ。1941年12月8日以前の国際情勢に関する知識が欠落しているのだが、日本の拡張的領土政策に対する制裁であったことが欠落した議論になっている。1937年の盧溝橋事件以後のシナ事変が、1941年の全面石油禁輸措置が理由で始まったわけではない。

2017年11月6日月曜日

社会学者の自己肯定バイアス

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社会学者の岸政彦氏が國分功一郎氏との対談で、「日本の社会学は、特定の一人か二人のせいですごく評判が悪い」と述べいていたそうだ*1。“特定の一人か二人のせい”なのか、“日本の”なのかを考えると、強い自己肯定バイアスがあるように思える。

2017年11月5日日曜日

ジェンダー・ギャップ指数では中国社会の闇は測れない

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天文学者の中島淳一氏が、少なくとも日本よりは中華文化圏では女性が活躍しているから、中国が日本よりも男女平等だとしても不自然ではなく、ジェンダー・ギャップ指数*1の信頼性を揺るがすものではないと主張している*2。これに対して、ジェンダー・インバランス、つまり新生児性比が男児に大きく偏っていることを理由に、男女平等社会だと考えるのはおかしいと言う指摘がされている*3。著しい男女差別があるのでジェンダー・インバランスになっているのは確かで、ここの部分を差し引かないといけないのは確かだ。

2017年11月4日土曜日

数物系のお供「リー群の話」

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ネット界隈で言及される数学用語は幅広いが、数物系学徒が呟く率が高いものと言えば、リー群やリー環だ。学部生向けの数物系の本の最後でも、リー代数について言及があることが多い。線形代数で表される連続群*1と、その接ベクトルが構成する交代積について閉じている環の代数は物理学徒にとっては無くてもならないものらしく、なんと縦列駐車の分析にまで使われる*2ぐらいだ。ちょっと気になるので、『不完全ではあっても“リ一群”の実体を簡単な実例によってまず把握する』と言う「リー群の話」を開いてみた。著者の佐武一郎氏は数学界隈では高名な研究者だ。

警察官がボディ・カメラを装備しても、態度が良くなるとは限らない

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米国ではケータイのカメラなどで、警察官のマイノリティへの暴力*1や不用意な発砲が可視化され社会問題になっているが、米欧では警察官の規律対策としてボディ・カメラ(BWCs)の装備が各所で試されている。「ボディカメラの装着で警官に対するクレームが93%減少」のような大きな効果を伝えるニュースをよく見かけるのだが、ランダム化比較実験(RCT)を用いた厳密な政策効果の測定を行うと費用対効果は微妙な結果になる*2

2017年11月3日金曜日

大学設置審議会の加計学園の獣医学部設置認可は、問題が無かった事を意味しない

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文科省の大学設置・学校法人審議会が、加計学園獣医学部の開学を認可する見通しとした事に対して、これまで言われた疑惑が虚偽であったことが示されたと喜んでいる人々がいる一方、疑惑があるのに設置認可を出したのは不透明だと憤る人々も出ている。政治的な立ち位置で意見が分かれるのは分からないのだが、ちょっと待って欲しい。設置審議会はあくまで国内基準で判断するところなので、今まで出された疑惑とは関係の無く設置認可を判断している。だから、論争に決着をつけることはできない。

コチャバンバ水紛争は民営化が悪い事例にはならない

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新自由主義やグローバル化を嫌う人々が、1999年から2000年に南米ボリビアで起きた水道事業の民営化に対する反対運動コチャバンバ水紛争を引き合いに出して、水道事業の民営化に反対しているのを見かけたが、日本での議論の引き合いに出すのは無理があるので指摘してきたい。コチャバンバ水紛争は、外資系民間企業への水道事業の売却が、反対運動の激化により撤回された事例で、確かに成功事例ではないのだが、水道の安定供給に失敗した事例でも、料金高騰を招いた事例ではなく、行政の狙いを住民が理解できなかった事例であった。

2017年11月2日木曜日

利用言語を意識すれば、時間感覚が変わる

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言語が思考に強く影響し、現実世界の認識を左右すると言うサピア=ウォーフ仮説が否定されてから久しいが、利用言語が知覚に影響する事もある。Journal of Experimental Psychology: General誌に掲載された研究で、スウェーデン語話者とスペイン語話者で、時間感覚に違いが出る状況が確認されたことが、POPSCIで紹介されていた。ただし、説明されるときに使われる言語によって体感時間の精度が変わると言う、ちょっと解釈が難しい実験結果であった。

2017年11月1日水曜日

ICT投資と非ICT投資を分けると日本のTFP成長率が落ちる理由

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先日のエントリーで紹介したTEDのTFP成長率の90年代の値が、Hayashi and Prescott(2002)のものと比較して格段に低くなっている理由について議論があったので、考察を加えてみた。結論を先に述べると、HP論文ではICTと非ICT投資の配分効率性の改善をTFPの改善として計測してしまうため、ICTと非ICT投資を分けているTEDよりもTFP成長率が高めに推移していると考えられる。