2016年12月8日木曜日

公教育支出の男女格差自体が問題なのか?

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日本の女子達は3200億円程の不平等を受けている』と言うNPO法人/国連児童基金の畠山勝太氏の論説が奇妙に思えるが言語化できないという質問をもらった。拝読してみたのだが、確かに捉えどころが難しい。

畠山氏は男女の進路の傾向の差異によって生じる社会格差を是正すべきと言いたいのだが、女子へのアファーマティブ・アクションを肯定するための方便として公教育支出の男女格差を是正すべき問題のように見せかけているので、内的整合性に問題が出てきて論説全体の主張が分かりづらいものとなっている。自分の問題意識を良く整理できておらず、それとは乖離のある方便を信じ込んでしまっているかも知れない。

1. 問題意識は社会における男女格差

「教育は基本的に社会の格差を拡大させる」と言う節があって、教育は社会の格差を拡大云々と言う議論があるので、男女格差についてはっきり言及はされていないものの、男女の進路の差が男女格差につながっていると言う問題意識が著者にはあると考えて良いであろう。この論説は連載のうち一つだが、以前の記事では卒業後の賃金が高いと考えられる工学部などでの女子学生比率が低いことを指摘している。あるべき世界として、女子と男子の進路に差が無くなり、その結果として男女格差が解消されるべきと考えていると思う。これはこれで、女子と男子の進路の選好の違いの結果であるから無問題と言う批判はあり得ると思うが*1、作文として終始一貫すべき著者の主張はこれになると見なせる。

2. 公教育支出の男女格差は進路選択の結果

さて、著者が取り上げている公教育支出の男女格差は、公教育支出の男女格差は女子が不当に扱われていると言うよりも、お金のかかる学部や大学院等に進学をしない人が不当に扱われている結果である*2。3ページ目に「理系の方がより多くの税金が投入されているが、女子学生は理系の方で少ない」「女子学生は教育段階が上がるほど少なくなる」「旧帝国大学は公的資金の受取額が大きいが、他の国公立大学と比べて女子学生比率が低い」と畠山氏自身がその理由を図らずとも列挙している。男子学生比率の高い事を理由に、補助金が多く割り当てられているわけでは無い。著者の問題意識からすると、進路選択こそが是正すべき問題であって、公教育支出の男女格差はその是正によって解消されなければいけない。

3. 公教育支出の平等/公平化は社会格差を是正するとは限らない

進路選択を是正するためのアファーマティブ・アクションを肯定するための方便にはなるであろう。しかし、畠山氏が方便を方便として認識できているのか分からないところが幾つかある。公教育支出の男女格差の解消シナリオ1と2は、要するに女子学生へ補助金を渡すような政策になるわけだが、男女の進路の傾向の違いがそのままで格差解消されることを排除していない。これでは、教育によって社会格差を是正すると言う畠山氏の目的は達成されない*3。「ケイパビリティ・公平性アプローチ」として「個々人が持つニーズや需要を考慮」しろと主張しているが、男子は理工系で女子は人文系を選好しがちな事を念頭に男女間での公平性を追求すると、理工系への補助を減らして人文系への補助を増やす事になり、これも同様に社会格差の是正効果を持たない。

4. 規範としての平等/公平と、方便としての平等/公平の乖離

ある政策を大衆に正当化する方便として、平等や公平と言った方便は良く機能する。言葉で平等/公平と聞くとそれを達成しないといけない気がするものだ。しかし、それを標榜する形態は色々とあるので、どのような平等/公平の状態が望ましいかは、よく認識する必要がある。国立大学を廃止して学部や学科の種類ごとの助成金の差をなくせば、公教育支出は平等/公平にはなるわけだが、これを支持する人は少数派であろう。つまり、規範としての平等/公平と、方便としての平等/公平は乖離があるものだ。畠山氏の場合も、社会格差の是正を目的に置いているわけで、公教育支出の平等/公平の是正はそれとは乖離のある議論になる。つまり、自分の本当の主張が何だか分からなくなっていると言う雑な論考になっている。表面的な建前で政策提言をしてくる国際機関の職員にありがちだなとは思うのだが、もう少し自分の考えを整理して欲しいところだ。

*1生涯賃金で見て有利な学部を選択しておらず、また国公立など授業料が安い大学での占有率の低さをみると、女子生徒は金銭的なインセンティブにそう反応していない面があるのは否定できない。

*2高校までは、男女の公教育支出にほとんど差は無いであろう。大学以降は、同じ大学の同じ学部にいる男女は平等に公教育支出を享受できるのであり、大学入試の門戸は同様に開かれているのだから、今の日本の公教育支出は男女平等と考える事もできる。なお、畠山氏は「私教育支出をいれると、男女間格差はより大きなものになると推定される」と根拠をつけずに書いているのだが、「高校生までは女の子の方が教育にお金をつぎ込まれているのでは?」と言う批判があった。

*3国立大学の人文系は女子でいっぱいだから、女子を増やせば自然と理工系や社会科学系の女子比率が増えると言う算段かも知れないが、こういう議論は展開されていない。

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