2016年8月7日日曜日

ラスカルの「真の失業率」にある恣意的な補正

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ラスカル氏の「真の失業率」推定と言うのがあって、リフレ派に人気だ。雇用環境が余りに悪いと職探しをしても仕事が見つからないので、失業者が求職を止めてしまう事を就業意欲喪失効果と言い、これによって就業者が増えていないのに公式統計の失業率が低下することがあり得る。ラスカル氏は、この就業意欲喪失効果をコントロールしようとした「真の失業率」推定を公表しているのだが、一箇所、かなり恣意的な仮定があって、それによって2009年で0.5ポイントぐらい真の失業率が大きく計算されているので指摘しておきたい。また、その仮定が不適切な理由も挙げておく。

ラスカル氏がやっている作業の概略は、私の理解ではこうだ。

  1. 各年代ごとの「潜在労働人口比率」を計算
  2. 各年代の人口に、各年代ごとの「潜在労働人口比率」を乗じて、各年代ごとの「潜在労働人口」を計算
  3. 各年代ごとの「潜在労働人口」を合算して、全年代合計の「潜在労働人口」を計算
  4. 「潜在労働人口」から就業者数を引いて潜在失業者数を計算
  5. 潜在失業者数を「潜在労働人口」で割って、「真の失業率」を計算

最初の(1)各年代ごとの「潜在労働人口比率」を計算するところに、恣意的な操作がある。時系列データにHPフィルターをかけると、トレンド要素とサイクル要素に分離することができるのだが、ラスカル氏は全年代でサイクル要素を就業意欲喪失効果の影響として除去している。問題は、20から24歳にだけ、残ったトレンド要素に恣意的と言える補正をしていることだ。

上はラスカル氏が「真の失業率」推定の説明で作成した図だが、1996年ぐらいから20から24歳の「潜在労働人口比率」が一定を仮定していることが分かる。HPフィルターで計算されたトレンド要素と比較して、2009年で5%ポイントぐらい高くなっているのだが、当時の20歳から24歳人口707万人から計算すると、潜在労働人口を35万人を多く見積もっている事になる。これは真の失業率推定に0.5%ポイントぐらいの影響を与える。これは、総務省の完全失業率と「真の失業率」のギャップや傾向の違いが一部無くなるぐらいは大きい*1

この仮定、正当化できるのであろうか。トレンド要素は山なりなのだが、女性の労働参加率の上昇によるプラス影響と、四大進学率の上昇によるマイナス影響があることに注意すると、さほど不自然な動きでもない。四大進学率は1996年の33.4%から2009年に50.2%に上がっていて、その前後の年も17%ポイント上昇とすると、20歳と21歳の人口は260万人ぐらいあったので、四大進学率の上昇が44万人ぐらいは労働力人口を押し下げている。これから女性の労働参加率上昇の影響が引かれるわけだが、現在では24歳以下の男女の労働参加率に差はない。就業意欲喪失効果によって四大進学率が上昇した可能性が気になるかも知れないが、2003年から2008年まで5年連続で高卒雇用環境が改善しても、同時期の四大進学率が上昇しているのをどう説明すべきか。90年代後半でも、そう大きなモノでは無いであろう。

60歳から64歳までの部分にもラスカル氏は恣意的な補正を加えている。1996年から2006年まで一定だと見なすべき理由は無い。以下はラスカル氏が作成した図に茶色の点線を加えたものだが、二次曲線状ではないと言う理由も無いであろう。

あるのか無いのか分からない就業意欲喪失効果だが*2、HPフィルターのサイクル要素がそれだと信念を置いたのだから、ラスカル氏は全年代でHPフィルターで計算されるトレンド要素を「潜在労働人口比率」とすべきであろう。20歳から24歳と、60歳から64歳までに信用が置けないのであれば、他の年代の値にも信用が置けないはずだ。そして、トレンド要素が非直観的であったとしても、ある年から一定であると言う仮定で置き換えるのは、恣意的と言わざるを得ない。

*1生産年齢人口における20歳から24歳の比率は減少しているので、現在では2009年ほどの影響は無いことには注意されたい。

*2関連記事:日本の就業意欲喪失効果はとても小さい

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