何かにつけて、民主主義の是非や、あるべき民主主義を議論しだす人は現れる。しかし、大抵は現在の政治的手続きに基づいて出てきた結論が、議論している人にとって気に入らないだけであって、理論的に整理されていないのはもちろん、経験的に意味のある議論にはなっていない。どのような形態の制度が望ましいかを語るための知識が不足しているためだ。民主的な制度の中で生活している人でも、一つの制度の一部分を知るに過ぎない。他にどのような制度があり得るかは、積極的に学習する必要がある。
ところが、現時点で全ての民主国家において代議制民主主義が採用されているといって間違いではないと思うが、その詳細には色々な形態がある。歴史的な変遷まで含めても、その形態は無数にあると言うほどではないものの、一つ一つ調べていくのは、かなり骨が折れる作業なのは間違いない。政治学の教科書を見ればある程度は書いてあると思うが、非政治学徒はそれを手を取るのは心理的に抵抗があるかも知れない。しかし、手っ取り早く大雑把な知識を入れるための新書が出ていた。「代議制民主主義」は民主的な政治制度を分類し、整理した本だ。
単に分類しているだけではなく、歴史的な変遷や課題も説明しているのだが、基本的に分類している。大統領制/議員内閣制/半大統領制(e.g. 首相公選制)の執政制度と、多数主義型/コンセンサス型と言う議会の進め方による選挙制度によって、自由主義と民主主義*1と言う代議制民主主義の二つの大きな目標が、それぞれどの程度実現されるかが記述されている。自由主義が少数の既得権益者を押さえ込み変革を促進し、民主主義が少数集団の権利を維持することで社会の安定をもたらし、制度に反映する自由主義要素と民主主義要素は、社会経済によって異なってくるそうだ。
ところで二つの目標の望ましいバランスが、社会経済に依存するとしてしまったので、もやもや感が残ってしまった。著者は社会経済の変化に適応するべく制度変革をすることを肯定的に捉えている気がするのだが*2、自由主義要素と民主主義要素の最適バランスをどのように判断したら良いのであろうか。選挙結果で判断するとしても、本書での議論では選挙制度の性質によって選ばれる議員の性質が変わるわけで、適切なバランスにならない。むしろ片方の主義を追求したい勢力が多数派のときに、片方の主義の要素が強い制度を導入してしまうことで、将来のリバランスを困難にする事の方が予想される。リバランスを担保するような制度自体が必要なはずだが、そういう議論はされていなかった。
一般教養の講義の教科書的な本で、三回ぐらい読むと選挙制度に関する大雑把な一般常識が記憶できる気はする。切り口を提示してくれるのは分野外の人間には有難いし、世の中に色々な民主制度があってそれぞれ長所短所があることを知ることだけでも、多くの人には意味があると思う。「一般意志2.0」や「来るべき民主主義」などのような学術的背景の薄い思想界隈からの議論に触れる前に、政治学者の書いた本に目を通しておくのは悪く無いと思う。この二冊は本書の索引にリストされていたので、著者もそれを望んでいるはずだ。
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