2015年7月23日木曜日

空は自由に飛ばさせてもらえない

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

日常生活では国土交通省や航空会社が上手く運行してくれているので気にする必要は無いのだが、何かと話題になる事も多いのが空路だ。中国風防空識別圏*1が話題になったこともあるし、パイロットと管制がやり取りする英語が問題になっていたり*2、ケネディ国際空港で管制官が二人の子供に航空機への指示をさせていて問題になった*3りするし、軍事基地の騒音問題で離着陸の経路に不満が持たれていたりする。広島空港のアシアナ機着陸失敗事故もあった。こういう問題で知ったかぶりをするには、航空管制がどうなっているのか知らなければいけない。

航空管制の科学*4は、どういう体制でどういう業務が管制で行われているかを示したもので、特に第一部は科学と言うよりは業務の流れを詳しく書いたモノだ。有視界飛行方式(VFR)や計器飛行方式(IFR)のような略語が多く初めて読むときは面食らうのだが、読み直すと、具体的な運行手順や交信内容が分かってくる。三回ぐらい読むと、"Ice Cap 11, Turn left heading 240, Descend and maintain 1500 for dog leg,"と自然につぶやけるようになると思う。空港の無線交信を聞く趣味の人に近づける。第二部は工学的な話や法律が紹介されていて、例えば航空自衛隊・川崎重工が現在開発中の戦術輸送機XC-2の巡航速度が旅客機並みな理由が分かる。航空機に速度差があると、管制の交信回数が飛躍的に増えるそうだ。

マニアックな本だなと思う人が大半だと思うし、そういう面は否定できない。航空評論でもしない限り、直接には役立たないであろう。しかし、航空に限らず、こういう系統の知識は何か得ておく方が良い。技術と言うと飛行機や船舶や車などの乗り物を連想する人が多いと思うが、実際はそれ以外の技術も無いと世の中は円滑に動かない。ところが、運行を支える技術も重要と言うのを否定する人はほとんどいないが、個別的な議論ではそういう部分に目が行かない人々は多い。何かにある程度は詳しくないと、忘れがちになってしまう。だから鉄道マニアでは無く、運行系の知識に乏しい人にも、本書を読んでみる価値はあるであろう。空を自由に飛びたいなどと言えなくなる効能があると思う。飛行計画を提出し、管制がそれを承認しないと飛び立てない。

*12013年11月に中国が独自解釈の防空識別圏を主張しだした。通常は軍事的な監視を行う範囲で各国が勝手に設定するものだが、中国風防空識別圏では民間機などに飛行計画などの情報を報告することを求める一方で、必要ならば臨検を行うと主張している(関連記事:中韓の防空識別圏は、国際条約への適合度が異なる)。

*22008年2月16日に新千歳空港で羽田行きJAL502便が、英語の聞き間違いで、滑走路に到着機いるのに離陸滑走開始してニアミスを起こした。なお本書で冒頭に例に出てくるのは、なぜか502便である。

*32010年3月4日の事件。

*4実は新版が出ていたのでそっちを読むべきだった。

0 コメント:

コメントを投稿