2015年6月11日木曜日

福島第一原発の災害・事故で、作業員に判断ミスがあったとして

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マクロ経済学者の斎藤誠氏が「震災復興の政治経済学:津波被災と原発危機の分離と交錯」で、「今般の原発事故は、あらかじめ想定された範囲と程度のもので、事故の拡大を防ぐための手立てもあらかじめ合意をされていた」(P.201)と主張している。兆候ベース(EOP)手順書*1に従って減圧注水を行っていたら、格納容器破損を起こさず交流電源の復旧まで原子炉の状態を保存できたと考えているようだ。しかし、もっと上手い対応があったにしろ、それが合意されていたと言うのは、言いすぎでは無いであろうか。少なくとも操作手順書には明記されていない。むしろ、操作手順書に無いことに踏み切れなかったので、上手くやれなかったように思える。

1. もっと取るべきだった行動

後から考えて、もっと取るべき行動があったのは確かだ。東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会は中間報告で、早期の減圧操作及び代替注水(消防車を用いたFP系注水)の準備および実行により、炉心融解を軽減できた可能性を指摘している。代替注水に至らなかった理由としては、非常用復水器(IC)と原子炉隔離時冷却系(RCIC)の稼動状況の確認を怠ったこと、ディーゼル駆動消火ポンプ(D/DFP)やホウ酸水注入系(SLC系)に不適切にこだわった事を指摘している。実際に代替注水の早期実行が有効であったか疑念もあるのだが*2、もっとも有効である確率が高い選択肢であったと考えられる。しかし、これがあらかじめ合意された行動規範と言うのは、言いすぎでは無いであろうか。

2. 操作手順書には明記されていない

消防車を用いた代替注水は、兆候ベース(EOP)、事象ベース(AOP)のどちらにも明記はされていない。また、事故調査・検証委員会も、操作手順書に従わなかった事は批判していない。

中間報告では、次のように書かれている。『徴候ベースの「事故時運転操作基準」を取り出して読んだが、その内容は、現実に発生している事象に対応できず』(P.93)とあり、アクシデントマネジメント(AM)用の事故時運転操作基準の手順書も「中央制御室の制御盤上の状態表示灯や計測機器によってプラントの状態を監視することができ、かつ、必要な制御盤上の操作ができることを前提として記載されていた」(P.93)。

念のために兆候ベース(EOP)手順書を見ておこう。「1号機 事故時運転操作手順書(徴候ベース)」の「11.フローチャート」の5ページ目を見ると、ステーション・ブラックアウトの場合は「事故時運転操作手順書(事象ベース)」を参照するように書かれている。

しかも注釈で、以後は兆候ベース(EOP)手順書を使用しないように明記されている。

参照先の事象ベース(AOP)の「第12章 外部系統事故」の「12-4 全交流電源喪失」を見ると、ICとRCICの稼動状況の確認は書かれていない。津波で電気系統が故障しフェイル・セーフが起動してICが停止したケースへの対応も、RCICを長時間稼動させて機能低下したときの対策も記述されていない。

3. 減圧注水、格納容器ベントと言う順番は守られた

斎藤氏は、兆候ベース(EOP)手順書を参照すべきであって、そこから減圧注水⇒格納容器ベントと言う順序で操作を行うと書かれていたと指摘する。しかし、格納容器ベントの前に、1、2、3号機全てでディーゼル駆動消火ポンプ(D/DFP)の使用が試みられている。これは主蒸気逃がし安全弁(SR弁)の操作が先行する減圧注水になる。代替注水(消防車を用いたFP系注水)だけが、減圧注水ではない。ゆえに「高圧注水系の維持にこだわり、減圧注水ではなく、格納容器ベントが優先された」(P.233)は、実際に行われた操作とは合致しない。電源が無いためSR弁の遠隔操作はできなかったが*3、故意に保留されていたわけではない。吉田所長の証言と合致しないわけだが。

4. 消防車を用いたFP系注水が後回しにされた理由

中間報告書には3月11日17時12分頃に「消防車を用いて、防火水槽の水をFP系ラインから原子炉へ注水することについて」「吉田所長が検討を指示した」(中間報告 P.123)とあるのだが、選択肢に入っていながら後回しにされた理由は何であろうか。

第1節で見た事故調査・検証委員会の指摘は妥当だと思うが、非常時に操作手順書と言うマニュアルに無いことを行うのが困難なことについて、もっと強調すべきであろう。長時間のステーション・ブラックアウトを想定した作業フローはどこにも書かれていなかった。つまり、消防車を用いたFP系注水は手順書に書かれていない。

つまり「AM策として定められていなかったため・・・各機能班の中で役割や責任が不明確であり、実際には、同月12日未明まで、使用可能な消防車や送水口の確認、消防車の配置や消防ホースの敷設といった具体的な検討、準備はなされなかった」(中間報告 P.123)わけだ。

行動経済学的な認知バイアスの部類に入ると思うが、非常事態で手順書に書かれていないことを実行するのは勇気が要る。手順書の「原理原則の本質を理解」すれば臨機応変に振舞えるとい うのは、俗人的で組織的な準備とは言い難い。最終報告では「過酷な事態を想定した教育・訓練の欠如」(P.404)を指摘している。

*1経済産業省のウェブページ「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故時運転操作手順書について」で参照することができる。

*2東京電力が「消防車による原子炉注水に関する検討」を出していて、それによると水素爆発前でさえ減圧注水は上手く機能していない。

*3その重要性が認識されていた一方で、車載バッテリーなどを集めてSR弁を稼動させなかった事は、事故調査・検証委員会から強く批判されている。

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