2014年11月8日土曜日

日本銀行から見たマクロ金融政策を語る本

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第2次安倍内閣の経済政策“アベノミクス”の第一弾として黒田日銀総裁が誕生し、黒田バズーカこと異次元緩和が行なわれて世間の注目を浴びているマクロ金融政策だが、各所から論評されてはいるものの、中央銀行の視点を良く説明している一般書はほとんど無いと思う。そのため少なく無い誤解が過去の、そして現在の日本銀行に向けられており、中には憤慨している人すらいるようだ。そういう人は、日銀出身で京大で教鞭をとる翁邦雄氏の『日本銀行』を読むべきだと思う。日銀も無責任にマクロ金融政策を展開しているわけではなく、長い金融史で培われた心配事があるわけで、この本を読めばそう世の中単純ではないと分かるはずだ。

プロローグから著者は巷の浅薄な金融政策論に不満をもって本書を執筆したと分かるが、特定の政策を強く奨めるものではない。第1章で世界の中央銀行設立史を、第2章で世界の金融政策の失策例を紹介した上で、第3章で日本銀行の設立史を、第4章で日本銀行の組織や業務を説明したあと、第5章、第6章で日本銀行のマクロ金融政策史を概説し、第7章から第10章で現在のマクロ金融政策論争を検討していく。必ずしも網羅的では無いが、主要な話題と考慮すべき事項は押さえられていると思う。また、第10章にある異次元緩和の出口戦略の部分は、巷の議論の一歩先を行く考察だ。

本書の半分強の分量になるが、第6章までに日本銀行の歴史と機能を把握し、日銀のバランスシートの概要を理解し、不況、(ハイパーとそこそこの)インフレーション、バブル、デフレーションなどのマクロ金融政策の ─ トラウマと表現されているが ─ 関心事項を把握することができる。教科書的な内容だが、意外に文体は軽く読みやすい。また、ベルギーの中央銀行を模倣して設立された、日本銀行と言う名称が最後まで決まらなかったなど興味深い小噺も紹介されている。一般向けと言うことで、娯楽性に配慮したようだ。

理論的な説明は極力省略され、貨幣数量説とIS-LMモデルが僅かに紹介されるに過ぎない。第8章でノーベル賞経済学者クルッグマンの議論が紹介されているが寓話による説明で、(参考文献にはあるが)It's ba+k!論文の紹介はされていないし、負の自然利子率の説明もない。80年代後半から90年代の緊縮財政がインフレ抑制をもたらした南米のケースも重要だと思うが、恐らく読者の関心を惹かない国だと思ったのであろう。

マクロ金融の教科書ではないから理論的な枠組みを提供しないものの、マクロ金融の教科書を読む前にこれぐらいは知っておいた方が良いことが書かれており、また特定の政策を押し付ける類のものではないので、金融政策についてあーだこーだと言いたい人には強く推薦したいし、あのリフレ派の禿げたオッサンの言説にむっとした左派の人にもお勧めしたい。断定口調で偉そうに何かを言えるほど、分かりきった話はないことが感じられると思う。

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