2014年7月23日水曜日

あずまん、ソーカル事件の余波にもっと苦しもうよ

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現代思想の専門家で、批評家・作家の東浩紀氏がソーカル事件で現代人文思想が風評被害に晒されていると嘆いているらしい*1。風評被害と言う所がひっかかった。物理学の比喩をハッタリで使っていたデリダの研究者である東氏からすると、重度に意味不明な文章を書いていたラカンと一緒にされるのが嫌なようだ*2が、同罪に思える。東氏の姿勢にソーカルが批判していた部分が見え隠れするからだ。

1. 数学・科学用語を濫用するポストモダンな現代思想家

ソーカル事件からおさらいしておこう。1994年にアラン・ソーカルが数学・科学用語をデタラメに使った論文を作成し、著名評論誌にそれを送ったところ掲載されてしまい、ソーカル自身は数学・科学用語の使い方が間違っている事しか指摘していないが、現代思想のデタラメさが露見した事件である。ソーカルが書いた『「知」の欺瞞』を見ると、ドゥールズ、デリダ、ガタリ、イリガライ、ラカン・・・とポストモダンな現代思想家のかなりが、数学・科学用語を濫用していたそうだ。

2. 中高レベルの数学の知識も危ういラカンの理解したふり

比喩がいけないと言う分けではないが、元の数学・科学用語の概念とほとんど合致しない使い方になっている事も多く、その比喩が正当化される理由の記述も無い事が多いそうだ。ラカンの『私が「無理数=不合理」と言うとき、何も私はある種の測り知れない情動の状態を指しているのではなく、正確に虚数といわれているものを指しているのです』と言う台詞をみるに、中高レベルの数学の知識も危うい。しかし、ラカンは自信満々で数学用語を濫用し続けていたようだ。イリガライに至っては、物理学にジェンダー概念を持ち込むと言う、モルダー捜査官もびっくりの暴挙に出ている。

3. 理解したふりと理解する気が無いことには大きな差は無い

ソーカルはこのような濫用を、その著書の第1章(P.7~)で4種類にまとめている。その最初が「どう見てもごく漠然としか理解していない科学の理論を長々とあげつらう」行為だ。東浩紀氏がこれから無傷で逃れられるかと言うと、科学を社会科学と置き換えれば、そんな事は無い。東氏が提唱していた「一般意志2.0」では、密接に関連する領域であるはずの政治学、統計学、社会選択論への無関心さが滲み出ていた*3。技術的に不可能ですよと指摘されても、思想だから現実の制度設計は関係ないと言いつつ、熱く「一般意志2.0」の未来を語るわけだ。ラカンらの理解したふりと、東浩紀氏の理解する気の無さは、どれほどの違いがあると言うのであろうか。

4. ソーカル事件の余波に苦しみ他分野に関心をもとう

あずまん、ソーカル事件の余波にもっと苦しもうよ。文芸評論が主戦場であっても、その興味関心から考えれば、もっと他分野に詳しくても良いはずだ。数学や科学を理解すれば、分かっていない単語を振り回す失敗を抑えられるし、アニメや小説だってもっと楽しく観ることができる。「シドニアの騎士」のスイングバイから慣性飛行に移ると言う台詞は、多体問題を数値解析*4した経験があるほうが、ずっと楽しく聴ける*5。統計学を知っている方が、疫学や社会のデータをより適切に理解する事ができる。もちろん理解するには、学習と言う苦しみが必要になる。しかし、理解したフリや理解を諦めたところから一歩踏み出ないと、ポストモダンな現代思想家たちと何ら変わらない。

*1ソーカル難民としての東浩紀」を参照。なおこのページには時系列的な事実誤認があるそうだ。

*2もっとも完全にラカンを避けてきたわけでは無いようだ(Twitter)。

*3一般意志2.0に漂う素人臭」「一般意志2.0は世論調査にも劣る」を参照。

*4Rで多体問題を数値解析」を参照。

*5スイングバイは推力を使わず慣性と付近の惑星などの引力で動くことなので、実際問題、慣性飛行と変わらない。軌道調整を意味する台詞なのであろうか。

追記(2014/07/24 02:16):コメントでツッコミが入っているのだが、慣性航法は慣性飛行の誤りであったので訂正した。なお、原作第53話で科戸瀬イザナの「スイングバイ加速成功!」「これより慣性飛行に移行します」と言う台詞の部分である。

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