2014年7月15日火曜日

これからお金についての浅はかな話をしよう

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

翻訳業界の赤い彗星こと山形浩生氏*1が「お金についての浅はかな話」と言うエントリーを書いていて、ビットコインに関連した書籍のうち「お金を哲学的に理解しよう、本質的に厳密に理解しようという議論って、全部だめだという感想に到った」としている。きっとマルクスの物神崇拝のような話が長くてよく分からない議論になっているのであろう。おっしゃる事は良く分かる。しかし、ビットコインと言う電子通貨は、お金を哲学的に理解したくなる特徴を備えているから、もっと生暖かく見守って欲しい。おそらく説明が適当なままの事象の一つで、ビットコインが一つの手がかりになるからだ。

1. 貨幣に求められる三機能

非経済学徒のために、貨幣の機能を振り返っておこう。お金には、交換機能、貯蓄機能、価値尺度(ニュメレール)機能がある。交換機能とは、世の中にある大半の商品と交換してもらえることだ。貯蓄機能は、蓄えておいても腐って無価値にならないことだ。価値尺度機能は物と物の交換価値の比較に使えることだ。この三つの機能がある事がお金の条件で、つまりこの条件を満たせば何でもお金になりうる。古代の日本では穀物や反物が通貨として機能していた。

2. 三機能しか持たない純粋な通貨は珍しい

ところがこの三機能があればお金になりうるのだが、三機能しか持たない純粋な通貨は珍しい。これが機能するのは難しく、流通させるために色々な努力が行われて来ているからだ。

交換機能を持たすのが難しい。開発途上国では通貨を発行しても流通しないことがある。開発途上国は自国通貨がなかなか信頼を得ることができず、ドルや貴金属が主要な貨幣になっている事もある。ドルや円も最初は、貴金属との交換できる兌換紙幣として価値を高めようとしていた。現在の不兌換紙幣も税金は自国通貨で収めることを考えると、納税券としての機能がある。純粋な貨幣とは言えないであろう。

3. 純粋な貨幣の価値にはゼロとプラスの二つの均衡がある

理論的に貨幣を見てみよう。教科書的にはSamuelson OLGと呼ばれる理論モデルで貨幣機能を理解する。この理論的な世界では、人々は若いうちに労働者として働きお金を貯め、歳をとるとお金を使って消費財を買う。図を描くと以下のようになる。

t期の若者にとってお金が価値を持ちうるのは、t+1期の若者にとってもお金が価値を持ちうることが条件だ。数理的な証明は省くが、この世界では二つの均衡があり得る。遠い未来に通貨価値がゼロになる事があれば、現在の通貨価値はゼロになる。どんなに未来でも通貨価値が僅かでもプラスであれば、ある通貨価値が一意に定まる*2

4. ビットコインって、純粋に三機能しか持ちえなくない?

話が長くなったが、ここまでは非経済学徒のための前置きだ。さあ、本題に入ろう。

理論的な貨幣価値はゼロとプラスの二つがありえる。現在流通している貨幣には、流通させるための制度的な仕掛けがある事を考えると、均衡はゼロに思える。しかし、兌換を辞めても通貨価値がそう大きく下がったわけでもなく、途上国で自国通貨を流通させるのに苦労しているのは、先進国の通貨と言う競合があるからかも知れない*3。法定通貨は純粋な貨幣の価値については、何も教えてくれないわけだ。しかし、ビットコインは違う。

ビットコインは電子媒体で、つい最近になって作られて広まった、納税にさえ使えない怪しげな概念でしかない。これが一部の商取引に限定されているとは言え、通貨として機能しているのは興味深い。純粋に三機能しか持ちえなくない通貨の価値は、プラスだったわけだ。

5. ああ、お金。あなたはどうしてお金なの?

遠い未来に地球が太陽に飲みこまれるのは、手堅い推測であろう。すると人類は滅亡してしまうので、いつか貨幣価値はゼロになりそうなものだ。どうしてビットコインは貨幣価値を持つようになったのであろうか。

我々は地球滅亡のときに、人類が地球を脱出できると考えているのであろうか。「無限のリヴァイアス」ではラストシーンで太陽系を脱出する人類が描かれていた。

それとも守銭奴型の人が世の中に少しいて、ワレットにビットコインを残して死んで生きたいと考えているのであろうか。「戦場のピアニスト」では収容所送りにされる直前のユダヤ人の少年が、主人公の家族にひとかけらのキャラメルを高値で売りつけるシーンがあった。

有限繰り返しゲームが非現実的なのかも知れない。ルービンシュタインの言うように、人々は遠い未来の終末まで正確に計算する事はできず世の中は永遠に続くと感じる*4ので、通貨価値が将来無くなる事が想像できないのかも知れない。なお山形氏は「人は無限遠のことなんか心配しない」としているので、ルービンシュタイン流の解釈をしている。

ビットコインから何故かハイパーインフレーションの心配や資本主義の崩壊を議論をしたがる人もいるようだが、なぜ我々がお金をお金と思っているのかを考えて見るのも良いと思う。偏見だが、こちらの方が哲学的だ。なおシラフで考えていると「モルダー、あなた疲れているのよ」と言われると思うし、場合によっては心療内科に強制受診させられるから、時と場所は選んだ方が良い。ビールジョッキが準備できたら、お金についての浅はかな話をしよう。

*1ある翻訳者曰く「やまがたさんはぼくの三倍のスピード」とのこと。常人だと、十分の一の速度にもならない気が。

*2無限の未来から一定の割引率で現在価値を逆算したら、極限をとって一意になる。複数均衡と聞くと無数の均衡点が存在して定まらないと言い出す人がいるが、この場合はプラスの均衡は一つだ。

*3山形氏がケインズの著作に「各国ですさまじいハイパーインフレ下であってもお金は使われる、という指摘」があると言っているが、途上国の経験を見ていると何かの都合で自国通貨が外国通貨に代替されてしまい、使われなくなるケースはあるように思える。

*4確か"Advances in Economic Theory : Sixth World Congress"の"Comments on the interpretation of repeated games theory"で説明されている。

0 コメント:

コメントを投稿