岩波書店の「科学」と言う一般向け雑誌の6月号に「東日本大震災/福島第一原発事故による死産と乳児死亡の時系列変化」と言う論文が寄せられているのだが、査読論文だったら一発リジェクトされそうな内容になっている。すでにTwitter界隈でダメっぷりが議論されているのだが、どうも論文著者は東日本大震災での被害は放射性物質による汚染しか無いと思い込んでいるようだ。
論文の内容は“高汚染県”(茨城県、福島県、宮城県、岩手県)の自然死産率の推移と、その他の都道府県のそれを比較すると違いが見られるので、放射線被曝による遺伝子障害の影響が発生していると主張するものだ。示されたデータが正しいとしても*2、明らかに不適切な分析になっている。
まず、都道府県の汚染レベルを検討した形跡が無いので、“高汚染県”が本当に高汚染なのかが分からない。茨城県と岩手県はそんなに線量が高いのであろうか。次に、“高汚染県”は津波による被害が大きく、放射線量と他の要因の識別をしないといけない。しかし、全くそれがされていない。津波の影響で衛生面が悪化した地域も多いはずなのだが。
放射線量と自然死産率の関係は良く分かっていないはずなのだが、「チェルノブイリ原発事故後、ドイツ南部のバイエルン州では放射性降下物と長期的な死産数の増加の間にはっきりした環境線量効果関係が観察された」と怪しげな論文を引用していることから、論文著者は不安を掻き立てて喜ぶタイプの人たちなのかも知れない。この「科学」と言う雑誌を初めて知ったのだが、岩波書店の編集部に不安を抱かざるを得なかった。
*1同じ内容の「フクシマの影響/日本における死産と乳児死亡」が公開されている。
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