2014年6月27日金曜日

中国共産党は中華思想を否定している

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中華思想と言う単語でTwitter検索をすると、まるで中国共産党が中華思想に沿って対外拡張政策を取っているかのような呟きが多く見られる。中国も調印しているはずの国連海洋法条約を無視した主張を繰り広げている中国共産党が、躊躇無く周辺各国と紛争を起こし、手前勝手な主張をしている事は確かだ。しかし、中国共産党が中華思想に沿っていると言うのは誤りだ。中国共産党の理論構成は、決して中華思想では無い。

1. 中華思想は漢民族と夷狄の領域を区切る世界観

そもそも中華思想とは何であろうか。天子を中心に漢民族が中央にいて、その周辺を夷狄(東夷、西戎、北狄、南蛮)が囲んでいる世界観のことだと認識されている。中国では華夷思想と言うらしいので、華人(=漢民族)と夷狄の対立構造が込められている。恐らく進歩人である豊かな漢民族と、野蛮人で略奪に来る匈奴の間に頻発する衝突を、発展させていったのだと思う。時代によって細かい意味の変遷はあるのだが、漢民族の領域と夷狄の領域が区切られているのが中華思想の特色になる。

2. 被征服民族である漢民族のアイデンティティ確立が目的

歴史的には多くの期間で被征服民族である漢民族のアイデンティティを確立するために、この漢民族と夷狄の間の境界線は便利な概念になる。中華思想で境界を引くことで、夷狄を排除した小さな中国を指向する事ができるからだ。行政権が及ぶ範囲としての国境線は近代になって生まれた概念で、古代において民族と民族の間に境界を引くというのは、画期的なコンセプトであったと思う。

歴史的に漢民族は夷狄に攻撃される立場であった。夷狄は漢民族から略奪するものがあるが、漢民族は荒野に住む夷狄から略奪する物が無い。夷狄に略奪されたり、夷狄に貢物を送ったりするだけでは無く、征服されてしまうことも多々あった。遼・金・元・清の征服王朝、五胡十六国時代や北朝、そして一説によると隋・唐を含む浸透王朝を考えると、歴史的に漢民族は異民族に支配されることに抵抗が無い。

夷狄を受け入れているわけだが、孔子のように排除したいと思う人々もいる。中国は夷狄が住むところではないと理論構成して、漢民族の独立を主張したわけだ。孫文が中華民国を建国したときには、夷狄である満洲族を追放する意図をこめて中華を名乗っていた*1。中華思想を採用すると、漢民族の小さな国が出来上がる。

3. 夷狄が外国になるため対外拡張政策に向かない

中華人民共和国を名乗る中国共産党も、孫文らの中華思想を踏襲しているように思うかも知れないが、建国当時から対外拡張政策を推進している中国共産党にとって、この中華思想はとても都合が悪い。中国共産党は大きな中国を指向したいのに、中華思想では漢民族の領域だけが中国になるからだ。

今の中国東北部にあたる満洲は、満州民族の領域だ。清国は漢民族に侵入するなと命令していたぐらいだ。チベットやウイグルも漢民族の領域ではない。中華思想を採用すると、これらは全て夷狄の領域になるので、中国外になってしまうのだ。夷狄も中華圏の内側だとすれば良いように思えるが、これをすると日本と言う夷狄が中国を占領しても単なる政権交代でしかなくなるので、シナ事変以後の日中戦争が批判しづらくなり、やはり都合が悪いのだ。朝鮮民族も色々な意味で厄介そうなので、中華圏の外側にしておきたいかも知れない。

中華思想は都合が悪い。だから中国共産党は、彼らが恣意的に決めた中国文化圏に属する人々を中華民族と勝手に命名している。中華民族を定義することで、好き勝手な領域を中国だと主張できるわけだ。そう、中共の論理は中華思想より歴史は無いが、中華思想より性質が悪い。何はともあれ、中国共産党の主張する中国は多民族国家であって、華人の国家ではないと、彼らは学校でそう教えている。

*1「滅清興漢」「駆除韃慮、恢復中華」と言うスローガンから理解できる。『「中華思想」を誤解する日本人 | PHPビジネスオンライン 衆知|PHP研究所』にもう少し正確な説明がある。

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