2013年7月27日土曜日

ジブリ「風立ちぬ」を観る前に読むべき本

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オリジナル作品だとして見ればいいのだが、ゼロ戦開発者、堀越二郎の「零戦 その誕生と栄光の記録」は読んでおく必要があると思う。きっと、宮崎駿の“美しい”と、堀越二郎の“美しい”は意味が異なるし、宮崎の描く身勝手さよりも、堀越にある身勝手さの方が、より醜悪だからだ。

本書は、群馬県に生まれ、東大の航空科で学び、七試艦戦、九試単戦(九六艦戦)の開発を担当し、零戦の開発を行い、終戦を迎えるまでの堀越二郎の半生を記した自伝的な内容になっている。厳しい海軍の要求水準に応えるべく、新技術を取り込みつつ、色々と頭を悩ませた事に対する回顧録になっていて興味深い。

1. 当時の戦闘機設計者の仕事が分かる

技術面は平易に説明されているので、誰でも戦闘機デザイナーとしての堀越二郎の立場が理解できる。堀越は機体設計を担当していたので、エンジンや材料については与えられた立場であった。だから翼の形状、空気抵抗、舵の効き、労働集約的な製造工程への意識、そして、何よりも軽量化についての工夫が懐古される。七試艦戦は失敗だったわけだが、制約付の最適化問題を想像力豊かに解いた結果が、九六艦戦と零戦と言う事のようだ。

2. 技術に対する創意工夫が興味深い

これら創意工夫は興味深い。九六艦戦では、エンジンの非力さから割り切って、引込め脚を諦めた。零戦は個々の部品の剛性を考慮して、機体強度の安全率基準1.8を大きく上回らないような設計にしたり、軽い材料を採用したりする面もあるが、設計面で徹底した軽量化を試みた。「機体の重量はなかなか減らないのに、われわれの体重ばかりが減るありさまだった」と、設計と重量計算が繰り返された様が説明される。

零戦の試験飛行で着陸脚を折りたたんだ姿を見て、堀越は「美しい!」と咽喉の底で叫んでいたそうだが、零戦の姿に対する感想でけでは無く、達成した技術水準に対する自己満足を表しているように思える。九六艦戦で諦めた機構が装備されているわけで、思い描いた戦闘機になっていたのであろう。

3. 予想外の問題とその解決

零戦の開発が初飛行後は順調にいったわけではない。エンジンと機体の共振と操縦応答性の問題が報告され、解決されていくし、堀越の中で重要な意義があったと思われる、二度の空中分解の問題も出てくる。なお事故究明は海軍の松平技師が片付けるのだが、むしろ堀越よりも、この人物の洞察力が天才的に思える。華は無いのであろうが、ある種の鬼才で、堀越もそれを認めている。

4. 堀越、もしくは時代の身勝手さ

堀越の醜悪さが二度目の空中分解事故の描写で表れる。バランス・タブが装着された機体の主翼外板に皺がよる問題が二階堂機に出た。そして、その問題に関してテストを行っていた下川大尉が、殉職する事になった。事故機を放棄せずに着陸させようと無理をしたためだと推測され、その後の設計と試験の向上に貢献したと称えられた。

下川大尉が熱心に機体テストを行ったのは確かだが、問題究明につながったのは全損した下川機ではなく、最初に問題が出た二階堂機であったそうだ。しかし、堀越は「下川少佐の死は、私たち関係者はもちろん、全海軍軍人を感動させた」と言う。堀越ら関係者は、下川大尉の死が問題究明に直接つながらない無駄であった事は、良く分かっているはずなのに。

零戦の開発体制には、問題があった。それは当時の安全管理の常識から言って、堀越の責任とも、海軍の責任とも言えない。しかし、問題究明につながってもいない犠牲を、大きな貢献と称える事で、当時の開発体制を美化する身勝手な醜悪さを感じ取らずにいられない。二階堂機を良く調査すべきだったし、せめて下川大尉は機体を放棄すべきだったように思える。

戦時中の零戦の優位性を主張する記述は、主任設計者の自負として理解できなくもないのだが、当時の殉職を称える空気に同調したのか、思い出を美化する無意識が働いたのか、堀越にある醜悪な身勝手さが気に障る。戦前から戦後で一線で活躍した技術者の心理が表れていると言う意味では、書籍としては秀逸なわけだが。

5. 軍国シバキ上げ技術者、堀越二郎

業務時間外に海外の航空雑誌をとりよせてよく読んでいた事など向上心を誇る面や、先進国に追いつけ追い越せ的な価値観を強く持っているところも、良く分かる。設計した戦闘機の戦果を素直に喜んでいる所を見ると、飛行機が作りたかったと言うよりも、競合者よりも優れた製品を作り上げたことに誇りがあったようだ。日本人の誇りを作ったと言う自負はあっても、戦争の片棒を担いで祖国を焦土にしたと言う悔恨はない。

ジブリ「風立ちぬ」の堀越二郎が、軍国シバキ上げ技術者であった堀越二郎を超える深みがある人物かは、それぞれで判断されたい。私は実在の堀越二郎に、強く心ひかれる部分がある。根を詰めて仕事をしていて、病気で倒れて療養を余儀なくされるところなど、実に人間的な人物だと思う。上司に持ったら、殺されそうな気もしなくもないのだが。

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