2011年9月14日水曜日

高齢者雇用対策と若年失業率

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厚生年金の支給開始年齢の引き上げで、退職年齢と年金支給開始年齢に差が出る事から、企業に65歳までの再雇用を義務付ける現行の制度をより厳格にする方向になっているそうだ。ただし、定年の延長の義務化は見送られる。

この高齢者雇用対策に関して、労務屋ブログでは若年者雇用に与える影響は少ないものの若者の不満を高めると指摘している。それを受けて、濱口氏が「ワカモノの味方神聖同盟?」で高齢者の自活を促進するほうが、社会保障制度の面から若者の負担が少ないと指摘している。主張はどちらも正しいが、議論が噛みあっていない。

1. 定年延長?再雇用義務化?

まず、定年延長か再雇用かと言う点で、事実認識で両者に相違がある。労務屋ブログでは「今回のような、全世代被雇用者100万人のところ定年延長を行って」と言っているので、何故か定年延長だとしている。これは報道と一致しない。濱口氏は「定年後の処遇をがくんと落とすことで」と言っているので、再雇用の義務化だと正しく認識している。

2. 賃金水準で雇用量が決まる

日本企業は賃金体系が硬直的なので、定年延長と再雇用だと待遇に随分と差が出る。企業負担としては、賃金が労働の限界生産物と一致する点なら給料を払うことは問題ないが、賃金の方が高いと雇用量を減らさざるをえなくなる。定年延長と再雇用だと状況が全く異なるわけで、労務屋ブログと濱口氏の認識の食い違いは大きい。

3. 再雇用は若者にとって損得どっち? ─ 得

高齢者再雇用の義務化が若者の職を奪う事は無いであろう。高齢者の賃金低下を伴うからだ。若者と高齢者で同一の労働を行っているのであれば、安い賃金の高齢者の出現は一時的に若者の待遇を悪化させるかも知れないが、雇用量が減るわけではない。そして高齢者が収入を消費している限りは、新たな需要、つまり雇用も創出されるので、賃金水準は元に戻る。

つまり若者にとっては社会的に養う老人人口が減るので、高齢者再雇用促進は得と言う事になる。

4. 定年延長は若者にとって損得どっち? ─ 損

定年延長だと状況は一変する。新規雇用止めをしないと解雇ができない上に、日本企業の賃金体系は硬直的だ。賃金の高い高齢者雇用を義務づけられるので、企業は新規雇用を縮小して雇用量を減らさざるをえない。投資水準が下がるのか、資本装備率が増えるのかは分からないが、若年者雇用は減少する事になる。職が無ければ、社会保障制度の負担の多寡は気にしてもはじまらない。

つまり若者にとっては就業機会を失うので、定年延長は損と言う事になる。

5. 議論が噛みあっていない所

厳密には賃金体系がどこまで硬直的なのか、定年延長された高齢者は賃金に見合う労働が不可能なのかに依存するが、若者にとって再雇用促進は得で、定年延長は損だ。ゆえに濱口氏の指摘の方を理解できる。なお、濱口氏は「高齢者雇用について論ずべきたった二つのこと」で待遇を含む賃金体系が問題であると指摘している。

ただし、労務屋ブログでは「高年齢者を早期退職させても若年雇用が増加する効果は限定的」と述べているので、再雇用か定年延長かは主たる関心事ではないように思える。再雇用でも若者の就業機会の拡大をもたらすわけでも無いからだ。若者の不満は、若年者の就業機会の拡大を政府が図っていない事だと考えると、高齢者雇用に焦点が行っている事は問題になる。

再雇用と定年延長という認識の差があって、濱口氏の認識や指摘が的を得ていると思うものの、労務屋ブログが定期している問題も理解できると言う状況になる。つまり、細部を抜かせば主張はどちらも正しいが、議論が噛みあっていない。

6. 硬直的な賃金体系に踏み込む必要性

解雇規制緩和論とも通じるところなのだが、硬直的な賃金体系を所与として、雇用の可否だけを議論する論者は少なくないように感じる(関連記事:解雇規制緩和論の曖昧なところ)。雇用条件の変更には、法的・政治的な障害があるのは否定できない。しかし、そこを所与にする限りは世代間対立は深まってしまうし、経済学的には所与にする必要は全く無い。もっと広い視点で労働問題を考える方が、現実的な解に近いように思う。

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