2010年4月27日火曜日

航空機とテストと安全性

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複雑で壊れたときの被害が多大な製造物では、設計/製造/運用段階を問わずにテストを行っている。特に、常に危険と隣り合わせの航空・宇宙産業のテストは独特かつ大掛かりだ。
2009年5月に最新鋭機のB787 Dreamlinerが、初飛行前のテストで胴体付け根に損傷が入ったのは記憶に新しい。その後、補強が行われて、2009年12月に同じテストをパスし、初飛行に漕ぎ着けている。現在は非常時を含めた業務運行に耐えられるかのテストが進められており、ボーイング社からその写真や動画が公開されている。

まずは、胴体や翼の過重テストの様子から。

航空機は飛行中、空を飛ぶ以上は当たり前の話だが、機体下部からの圧力を浮けている。機体を飛ばすだけの過重がかかる上、姿勢や状況で変化しやすい負荷である。機体が耐えられないと空中分解もありえるので、翼下過重に耐えられるかは重要なテスト項目だ。上の写真は初飛行間のgauntlet testingで、左の写真は非常時を想定した150%過重テストである。骨組みを使ってワイヤーで下から吊り上げることによって、擬似的に翼下過重を作り出している。

なお、かなりしなっているが、これは過度にかかる力を逃がすための設計上の工夫で、パキっと折れたりしなければ問題ない。

次は、cold soak testingと言って、冷水をかけて冷寒地での稼動テストを行っている。右側の写真は、ボーイング社が公開しているテスト光景の動画の一部である。霧がかかっている感じに見えるかも知れないが、作業員が服装からかなりの寒さであることが分かるであろう。巨大な冷蔵庫に航空機を丸ごと入れているわけで、考えてみると壮大なテストであることが分かる。

次は、flutter testing中のテレメトリ・ルームの光景。

これは飛行中に発生する振動が共振して、機体に影響を与えないことを確認するテストだ。小さい力でも共振してしまうと、大きなうねりになって構造物を破壊する。僅かな風でアメリカのタコマローズ橋が共振破壊され落下した事は有名だが、航空機でも同様のことがおきうるわけで念入りにテストしているようだ。さてテスト光景だが、意外にテレメトリ・ルーム内はPCが並んでいるだけで、際立って特殊な機材は見られない。

最後に、B787やB747-8用に開発された超音波検査器。

複合素材を使った航空機の損傷はほとんど目に見え無いので、構造的なダメージを整備士が駐機場で見るために開発された。日本航空123便墜落事故の原因の一つとして、金属疲労が指摘されているが、新型の複合材料を使った航空機でも同様の問題が発生する可能性がある。設計段階で耐用年数などは試算しているわけだが、計算があっているとは限らない。運用中に定期的に非破壊検査を行う必要は常にある。

人間が完璧でない以上、その設計も完璧ではない。特にB787のような最新鋭機は、新しい素材や構造を採用しているために、予想外の事が起こりやすいと言える。しかし、航空機は大小を問わず事故を何度も起こしているが、その経験をテスト工程にも生かす事により安全性を保障するようになっている。もちろん航空機だけではなく、成熟した製造業は過去の経験から念入りな設計/製造/運用テストを行っているものだ。ついついテクノロジーと言うと、何かが作れて便利になるところに注目してしまいがちだが、それを支える環境も大事な技術的な要因だ。専門家は常にテストの重要性を頭に入れていると思うが、一般の利用者も、たまにはテスト工程に注目してみるのも悪くは無いだろう。

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