2023年11月19日日曜日

2023年の夏から秋のウクライナ侵攻は、ロシアの狙い通りに進んだのだけれども

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ウクライナの反転攻勢は9月中旬から大きな動きがなくなり、ゼレンスキー大統領は否定しているが、膠着状態に陥いった。

8月末に南東部ロボティネ(Robotyne)を奪還したが、そこから大きな前進はない。逆に、ロシア軍は南東のアウディーイウカ(Avdiivka)を損害を出しつつも包囲を完成しつつある。東部ではバフムート周辺などでも、ロシア軍が攻勢を強めていると言う見解がある。ウクライナはドニプロ川の渡河作戦を活発化させているが、牽制と思われる規模である。

占領地の奪回を目指す反転攻勢は8月末に一旦終了していた蓋然性が高い。地雷原で足し止めして攻撃してくるロシアの防衛陣地は、新設の機械化旅団では突破できなかったが、工兵がサーモグラフィーを上手く使って地雷を除去し、歩兵で突破することはできた。しかし、そこから11月も半ばの現在まで戦線が動いていない。一方、ロシアが効率よくウクライナの攻撃を退けられるようになったわけでもなさそうだ。ウクライナの大きな損害は伝えられていない。

ロシア軍を押し返すのは当面諦めたと推察できる。歩兵主体の前進は可能であっても、ロシアが長距離から榴弾砲を打ち込んでくるのは変わらず、兵の損耗は大きくなる。ロシアがウクライナ全土から撤退する条件は不明であり、ウクライナは継戦能力を大きく落とすわけにはいかない。歩兵主体でも、泥濘期は補給や輸送が困難になるので、前進力は落ちる。無理をすればできても、無理をすべきとは言えない。しかし、作戦が止まったわけではない。

ウクライナ軍の公表では、継続的にロシア軍の火砲を潰している。ウクライナ軍の公表値は概ね信頼できる。2022年のセヴェロドネツィクが陥落したときは、ウクライナ軍が公表するロシア軍の損耗は小さくなっていた。対レーダーミサイルによるロシア軍の対砲兵レーダーの破壊により、ウクライナ軍の砲兵が反撃を受けづらくなったこと、長距離ロケット弾によるロシア軍後方への攻撃により補給線を細くできていることから、9月ごろにウクライナとロシアの火力投射量が逆転したと目されている。火砲の数が不足し砲撃が困難になれば、ロシアの防衛線は機能しなくなる。

ロシア軍の防空システムへの攻撃も積極的に行われている。多数の機材からなる防空システムへの攻撃が、システムをどの程度破壊できているのか定かではないのだが、日本の北方領土に配備されていた防空システムがウクライナに移動した話から、防空システムへの攻撃も戦果をあげていると推察される。ロシアはロシアで北朝鮮からの武器輸入を開始するなど手をうっているわけだが、レーダーなどを搭載したハイテク兵器の不足は改善しないので、対砲兵レーダーや防空システムの破壊はなかなか回復できない。防空システムが無くなれば、ウクライナに来年配備されるF-16による近接航空支援をロシアは阻止できなくなる。

ウクライナは反転攻勢は失敗していない、戦線は膠着していないと言いつつ、今年の領土奪還は諦め、来年の進軍のための予備作戦に切り替えている蓋然性が高い。ウクライナ政府は欧米に、防空システムと対地雷兵器の追加支援が必要だといっているが、これらが供給されるとしても年末から来年になる。しかし、2023年の夏から秋はロシアが狙った状態になったわけだが、ウクライナの敗色が濃厚になったというわけでもない。

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