2023年5月4日木曜日

在日ムスリムへのハラール給食提供要望が炙り出すイスラム恐怖症

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2017年にある在日ムスリムが浜松市の多文化子ども教育フォーラムで、ムスリムの学童に学校給食でハラール*1を提供できないか要望したことがあったのだが、権利主張の強いワガママ集団のように捉えて非難する人々が多数いた*2。今でも同様に考えている人々がそこそこいるのだが、誤解に基づく偏見に過ぎない。

1. 荒唐無稽な要望ではない

日本人の食文化を尊重していないと主張する人がいたのだが、日本人もハラールを食べろとは言われてはいない。学童を抱える在日ムスリムの多くは、学校給食の献立に応じて子供に弁当を持たせて対応してきているので、行政に頼るだけで自助努力をしていない集団でもない。憲法20条に抵触するという主張があったが、特別豪華とは言えない食事を提供するだけで、布教の支援になるような行為ではなく、ヒンズー教徒やユダヤ教徒がいれば同様に配慮することも期待されるので、違憲とは言い難い*3。「対応を検討してほしい」と要望を出しているだけなので、声高に権利として主張しているとも言えない。給食の予算やシステムなどによって実現不可能な場合は、行政が断れば済む話に過ぎない*4

まったく実現可能性の無い話でもない。イギリスでは地域によって学校給食でハラールを提供しているし、日本でも例外的だが私立保育園や公立小学校などで、ムスリムの園児や学童にハラールが提供されていた事例がある*5。給食の予算やシステムなどによって実現不可能なことも多いであろうが、荒唐無稽な要求とは言えない。ムスリムだけではなく華人やヒンズーもいるマレーシアのように学食ではなくカフェテラス形式にしろと言われているわけではない。

互恵関係ないならないので不正と言う主張も見かけたが、貿易や投資などの経済活動のために外国に在住する必要は出てくることから、在留外国人への便宜を図るようなことはほとんどの国でやっている事だ。イスラム圏でも例外ではなく、在留外国人が飲酒や豚肉を食べることをは、現地の慣習に反していても許容されることが多い。中東でもホテルでは飲酒ができるし、大規模スーパーにいけば豚肉を買うことができる*6

2. 偏見に固執して詭弁に頼る

以上で実現可能性の無い行政サービスを、自助努力もなしに行政に権利だと求めている話ではないことが分かるはずだが、別の論点を導入して権利主張の強いワガママ集団と言う結論を維持しようとする人もいる。

「ルール改定や運用変更を求めるならムスリムも同じ検討を」しなければならない、在日ムスリムは戒律を変えるか検討するべきだと主張しだしたのだが、行政は要望を断った後に在日ムスリムが戒律を変えても行政の利益になることはないし、そもそも在日ムスリムはこれまでも弁当を持たせるか戒律を緩めるかの検討と選択をしてきたし、要望が受け入れられなければ同様の検討と選択を続けることになるので、無意味な主張だ。

さらに、行政が要望を断った後に在日ムスリムが戒律を変えれば行政が要望を断わることができると支離滅裂な主張をし、行政に要望を出す行為は嘲笑に値するのは自明と強弁していたので、論理的な思考ができなくなるぐらい強い偏見に囚われていたことが分かる。

3. ムスリムが増加することへの危惧

藁人形論法による在日ムスリム非難の背景には、ムスリムが定着することで、日本社会に悪影響が及ぶというイスラム恐怖症イスラモフォビアがあるようだ。イスラム教に融和的な社会だとムスリムが増えて、日本社会との軋轢が大きくなる危惧に言及している人もいた。

危惧自体は不自然なものではなく、日本社会と軋轢を起こしうるイスラム教の戒律は多々あり、女性の服装や土葬や早朝の礼拝などがあげられる。しかし学校給食自体は、行政がサービスを拡充するか、在日ムスリムが弁当を頑張るかのどちらかで解決できる問題なので、大きな軋轢にはなりえない。ハラール給食を導入するとムスリムの要求が増大していくという指摘もあったが、2017年にイギリスで導入された、コーランが求める気絶させない屠殺方法による食肉を学校給食で使うことを禁じる条例は、ムスリムへの配慮が小さくなることを意味したが、反対はあったものの最終的にムスリムに受け入れられた*7

言語、制度、歴史などから難民・移民が流入しづらい事情があるので、ムスリム配慮によってムスリムが増加するというのは、摂り越し苦労に過ぎない。母国から移住したいムスリムは、既に膨大な難民・移民が流入している旧宗主国、英語圏を選びたがる。

4. まとめ

在日ムスリムのハラール給食提供要望に関する議論は誤認に基づくものが多く、誤認に基づいて在日ムスリムが権利主張の強いワガママ集団であり、日本社会の平穏を乱すと主張することは、在日ムスリムへの憎悪を煽るヘイトスピーチに他ならない。また、在日ムスリムは戒律の遵守を権利ではなく義務だと考えているので、要望に応えられないとしてもワガママだと非難することは、不必要な対立を生むことになる。在日ムスリムの増加を心配している人々がいることは分かるのだが、他に生じうる問題に目を向けたほうが建設的だ。

*1コーランに厳密に則ったハラールを提供するのは一般には困難ではあるが、何をハラールとするのかは個々のムスリムが定めるのが適切な解釈ということなので、ムスリムの保護者が提供ができる程度のモノで十分。ただし、当初話題になったときより5年が経って、ハラール冷凍食品が拡充されており、それも中東や東南アジアからムスリムが操業している会社の製品を取り寄せることが不可能ではなくなっているので、コーランに厳密に則ったハラールが提供不可能というわけでも無さそうである。割高になるので、給食に利用するのは困難であろうが。

*2痛いニュース(ノ∀`) : 日本在住のイスラム教徒の子どもがハラール非対応給食に苦慮→学校側に配慮求める - ライブドアブログ

*3憲法20条に「いかなる宗教団体も、国から特権を受け…てはならない。」とあるので、ハラール提供を特権と感じる人々には違憲に思えるようだが、津地鎮祭訴訟の判例では「宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」が違憲とされる一報、市立体育館建設の鎮魂祭はこれらにあたらず合憲とされた。

*4つくば市では、給食センターの設備的に対応できないので、歯切れ悪く無理と断っている(ハラール給食を提供してほしいです/つくば市公式ウェブサイト

*5「泉区にある横浜市立飯田北いちょう小学校は・・・ムスリムの児童が在籍中、豚肉など彼らの食べられないものが給食に入る際は、その食材のみを除去したハラール給食の提供を行っていた。」(観光都市・横浜とムスリム(中) 「食」の不安、以前より軽減 | 保土ケ谷区 | タウンニュース

*6外国人に配慮した給食の事例は聞かないが、そもそもイスラム圏では学校給食は一般的ではなかった。マレーシア、サウジアラビアはカフェテリア形式で食事を選べるようになっており、インドネシア、カタール、パキスタンなどでは給食がなく、シリア、イラク、エジプトは国連世界食糧計画がベジタリアンでも食べられる軽食を提供している。

*7イギリスに流通するハラール食品の大半はコーランが求める屠殺方法に沿っていないが、在英ムスリムのほとんどがそれを受け入れているためだと考えられる。

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