2021年3月28日日曜日

「負の性欲」でツイフェミの振る舞いは説明できないよ

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

歴史学者の舌禍事件の余波かTwitter発の概念「負の性欲」への言及が増えていたのだが、この用語を広めた白饅頭こと御田寺圭氏のエッセイ「「負の性欲」はなぜバズったのか? そのヤバすぎる「本当の意味」」に気になるところがあったので指摘したい。「負の性欲」でツイフェミの振る舞いは説明できない。

負の性欲は、配偶者として不適切なダメ男性と子を設けないように、ダメ男性に接近しないようにする生殖戦略をとるように女性に働きかける、ダメ男性に対して女性にが感じる生理的嫌悪感を指す用語。進化生物学から出てきた概念ではなく、Twitterでリョーマ氏が考案したものである。御田寺圭氏がこの「負の性欲」をエッセイの以下の部分で、ネット界隈の風紀委員型フェミニスト、通称ツイフェミの言動の動機としている。

実際にアプローチをかけてきた男性や、仕事や日々の生活で相対する男性に対し、女性が拒否の意思を示すこと自体はもちろん批判されるべきものではない。

「負の性欲」が特に女性に対する批判として扱われるのは、(1)自分の「生理的嫌悪感」にすぎないものを、社会的にもっともらしいワード(「性加害」「ハラスメント」など)によって根拠づけたり、(2)見ず知らずの男性の私的領域にまで踏み込んで「キモい(あなたの言動でキモいと感じさせられた私は被害者で、お前は加害者だ)!」と言い募ったりするような場合においてである。

「自分に接近し、性的にアプローチしてきた男性を拒否(厳選)する」という枠を超えて、特にSNS上では「自分に向けられているわけでもない、無関係な他人の性欲を発見したさいに、まるで自分のことのように被害者意識を持ち、これを断罪しようとする過剰反応」が頻繁に起きている。それこそが、「負の性欲」が問題化される局面である。

一見それらしいのだが、御田寺圭氏自身が説明するように、「「自分に接近し、性的にアプローチしてきた男性を拒否(厳選)する」という枠を超えて」いる。つまり、ツイフェミの行為は、配偶者として不適切なダメ男性と子を設けるリスクを減らしてはいないので、「負の性欲」のような進化生物学的な説明は(少なくともそのままでは)適応できない。そもそも生殖機会を減らすには避ける方がよいので攻撃的に罵る必要がないし、ツイフェミ以外の大半の女性はスルーして罵っていない。

「負の性欲」が進化生物学で説明できる見込みが低い事にも注意したい。男女の身体構造の差異から生殖戦略が変化するのは進化心理学的にそうであろうし、女性の方がえり好みが激しくなるのは分かるのだが、キモい男は全て遠ざける生殖戦略が最適なのかはよくわからない。実際問題、優秀な子でも成熟する前に死んでしまったら意味がなく、モテ男の子を自力で育てるよりも、生活支援を得て非モテの子を育てる方が、子孫繁栄の可能性が高くなるからだ*1。男性の優秀さに応じて女性の態度は変化するであろうが、完全に下を避けると結婚できずに子孫を残せなくなる確率が上がる。さらに、ツイフェミに非難されている表現物が好きな男性、配偶者や性的パートナーが絶対にいないわけでは無さそうだ。むしろ、いない方が例外かも知れない。

ツイフェミの表現物への非難は、進化生物学的な議論を持ち出すとすれば、男性の取り合いの一種、女性間攻撃の延長と見る方が自然ではないであろうか。結婚市場での自己の価値を高めるために、女性には自分と異なるタイプの女性の性的魅力を非難する傾向性があって*2、それが女性を模った表現物にも適応されてしまう。ゆえに、自立して男性と同じように働いてきた女性には、男性がエロ可愛い格好の女性を好むと生殖が不利になるので、エロ可愛い格好の女性表現物を非難する衝動がある*3

そもそも進化生物学でどれぐらい理由を説明できるかわからない事にも注意して欲しい。生物としての男女の振る舞いの差は観察できるわけだが、それがどれぐらい先天的なものかはだいたいの所までしか分からないし、それが性淘汰にどれぐらい有利であったかはなおさら分からない。進化生物学によるヒトの振る舞いの説明は、話としては面白いのだが、気付いたらまったく逆の議論になっていたって不思議は無いのだ。素人談義であればなお更。

*1御田寺圭氏は8,000年前に生殖を行った女性17人に対して、自身のDNAを伝えることができた男性はたったの1人だったことを示す論文の紹介記事を参照しているが、記事では新石器革命が男性主導による他共同体の征服などにつながり、男性間の生殖競争を激化させた可能性が示唆されており、女性の選り好みの結果、安定的な社会でそうなったとは書いていない。

*2セックス経済論 (8) セフレ/名誉か汚名か/女性間攻撃/結婚勾配 | 江口某の不如意研究室

なお、男性に同様の傾向性が無いと言う話ではないので注意されたい。

麻生 (2010) 『科学でわかる男と女の心と脳』の「9. パートナーつなぎとめ戦術」の節(pp.100–103)にもライバルけなしの言及がある。ただし、詳しい説明はない。

*3進化生物学的理由付けをせずに、自分が規範的であると自認しているため、自分(の価値観)と異なる生き方は規範に外れると考えているとする方が無難に思える(関連記事:エロ可愛い格好は女性に有害)。

0 コメント:

コメントを投稿