2017年5月31日水曜日

受動喫煙の害の疫学エビデンスは“事情を考えると”それなりある

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公共の場の間接喫煙対策は臭い煙たいと言う不快感の抑制で正当化しても良いと思っているのだが、どうも健康問題に落とし込まないと気がすまない性癖の人が相当数いる。はっきりしない面があると言われると、ショックのようだ。しかし、そう落ち込む事は無い。計量分析に伴う厄介な状況を認識しつつ疫学分析を見れば、受動喫煙の害のエビデンスはそれなりある。前のエントリーと逆な事を言い出して・・・などとは言わないように。

1. 疫学分析に向かない

やらざるを得ないわけだが、受動喫煙の害は計量分析では示しづらいが、直接喫煙の害も示しづらいものである。人体実験をするわけにはいかないし、喫煙から肺がん罹患までの期間が長すぎる。あれこれ議論をして来た結果、今はコホート分析ぐらいで効果を認めようと言うことになっている。間接喫煙も同じ手法で分析しようとしているのだが、直接喫煙に輪をかけて難しい。

  1. 受動喫煙の効果量が、直接喫煙と比較して小さすぎる。国や時期によって推定される効果量に大きな差があるのだが、過剰リスクで10倍以上の差がある。t値のような統計量が大きいほど統計的有意性があることになるのだが、その分子は効果量、その分母は標本数に依存する。効果量が小さければ、超巨大コホート分析が必要になるが、それにはお金がかかりすぎる。
  2. 受動喫煙の有無と言う変数自体に、大きな誤差が混じっている。自分が吸ったタバコの本数は何となく覚えていられるが、自分がどの程度の副流煙を吸ったかは距離や換気などに影響するのでよく分からない。間接喫煙の害が出るまでは長いラグがあるので、詳細な情報を記録していくのは困難だ。統計学の練習問題でよくあるが、説明変数の誤差が大きくなるほど推定される係数はゼロに近づき有意性は出なくなる。

メタアナリシスをして複数の研究をつなげれば有意性を出せるとは言え、計量分析結果だけではエビデンスが弱いのは認めざる得ないであろう。今の状態では、低レベル放射線の健康被害やホメオパシーの効果と何が違うのか言われると、長々と事情を説明しないといけなくなる。喘息などの他の疾患でも、やはり直接喫煙よりは被害程度は軽いであろうから、統計的に検証するのは難しくなる。

2. 弱い有意性と動物実験など周辺情報に目を向けよう

もっとも出版バイアスもあるとは言え、多くの研究では5%有意はなくても10%有意ぐらいは出ているようだし、ちょっとコントロールが謎であるが、ヘビースモーカーの妻に限れば有意性も出ている研究もある。動物実験では何とか有意性をひねり出しているようだし、副流煙の成分が大量に吸引すると健康に悪いものであるのも確かだ。総合的に見たら、計量的には弱い結果であっても、間接喫煙の害は存在する蓋然性は高い。

3. 現状の疫学調査の結果からは取るべき政策は分からない

二転三転した議論になるが、間接喫煙の害が存在したからと言って、政策的に全ての受動喫煙防止策が正当化されるわけではない。話題の健康増進法改正案に関しては、逃げ場がそんなに無い上に暴露時間が長くなる家庭内の受動喫煙の分析を、分煙が進んできた飲食店などに当てはめて良いのかと言う批判も出るであろう。

こういう難しさがあるので、政策的には、臭い・煙たい・喫煙者が喫煙可能な飲食店などを強く推奨してうざったいと言う不快感の抑制を理由にした方が、理屈は通しやすい。喫煙は生命維持のためではなく嗜好でしかないので、多数派たる非喫煙者の嗜好を優先する方が、少なくも功利主義的には正当化されるはずだ。喫煙所がこの世から無くなるわけではない。

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