特に何も無いと言わないように。
さて、蓮舫議員の国籍問題がネット界隈で盛り上がっている。日本に限らず政治家の国籍が問題に挙げられることはあるのだが、今回のケースにおいてどのような問題があるのか、よく整理している人はいないようだ。気にしていない人も多いし、冷めかかっている気もするが何かと議論にもなっているので、論点についてまとめておきたい。
1. 事件の経緯
蓮舫氏は日本人の母親と台湾人(中華民国国籍)の父親との間に、当時の父系優先血統主義により、日本国籍を保有していない状態で日本で生まれた。1984年の国籍法改正*1で母親が日本人であれば日本国籍を取得できるようになり、1985年1月21日に当時17歳の蓮舫氏は日本国籍取得の手続きを行い、同年中に日本国籍を取得。また、父親に連れられて国籍の事に関し亜東関係協会(現・台北駐日経済文化代表処)を訪問したそうだ。法令から、この後、22歳までに国籍の選択の宣言を行なっていると思われる。芸能界入りしてから政界に身を転じるまで、雑誌のインタビュー記事などで二重国籍/帰化した/台湾国籍と一貫しない事を説明。2004年参議院選挙の選挙公報に「1985年、台湾籍から帰化」と記載。2010年に「ずっと中華民国国籍(台湾国籍)を維持」と中華系航空会社の機内雑誌に記載される。2016年9月3日の産経新聞のインタビューで国籍に関して質問され、その後、「生まれた時から日本人」「18歳で日本国籍を選択」「日本国籍しか持っていない」と不正確な説明を行なう*2。2016年9月13日に、台北駐日経済文化代表処が蓮舫氏の中華民国国籍を確認・それまでの不正確な発言を謝罪した。
2. 蓮舫氏の法的な問題点
国籍法の第十六条に「外国の国籍の離脱に努めなければならない」とあるので、罰則規定無しの努力義務違反となる。蓮舫氏は中華民国は国家承認されていないと言う弁明をしているが、この言い訳は通用しない。台湾人が帰化する場合は、台北駐日経済文化代表処において喪失国籍許可証書を取る必要があるそうなので、中華民国籍は放棄することは求められている。ただし、自覚せずに二重国籍のままになっていたと言う人も他にもいて、日本政府が国籍離脱を積極的に勧めている気配が無い。国籍選択届を見ると、「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄します」とあらかじめ書かれているだけなので、これに署名して終わりと誤解しそうである。
公訴時効3年なので厳密には道義的な問題になるが、公職選挙法違反(虚偽事項の公表罪)も取り沙汰されている。2004年参議院選挙の選挙公報に「1985年、台湾籍から帰化」と記載しているが、実際は日本国籍を取得したに過ぎない。ただし、亜東関係協会(現・台北駐日経済文化代表処)を訪問で中華民国国籍から離脱できたと勘違いしていたのであれば、故意とは言い難いであろう。日本国籍の取得と台湾国籍離脱の組み合わせを帰化と表現したに過ぎない。雑誌などに掲載された発言に関しては、過去と現在を取り間違われたと言う弁解がある。
3. 蓮舫氏の道義的な問題点
まず、政治家なのに自分の国籍も良く把握していなかったことが問題になる。特に、日本と台湾(中華民国)は尖閣諸島問題のように外交上の強い対立軸があるので、産まれや育ちは隠さずに来たとしても、国籍はなお重要であるかも知れない。次に、2016年9月3日以降の説明が不適切であった事が問題になる。最後に、政治家が二重国籍である事自体が考え方によっては問題になる。
最後の点について論争があり、批判者・擁護者双方から海外事例が引かれているが、政治家の二重国籍を問題にするかについては統一した見解は存在しない。米国大統領選挙において、テッド・クルーズ氏が過去にカナダ国籍を持っていたことが批判されていたし、英国のボリス・ジョンソンも米国国籍の保有が批判されている。日本でもフジモリ元ペルー大統領が参議院選挙に立候補したときに、朝日新聞は批判していた。しかし、問題にされないケースもある。カナダのジョン・ターナー首相、エストニアのトーマス・イルヴェス大統領、フランスのベルカセム教育相は問題になっていないようだ。
なお、法律で議員から二重国籍者を排除しようと言う動きがあるが、国籍離脱手続きが定められていない国との二重国籍者も存在することには注意する必要がある。両親のどちらかが日本国籍であって、フィリピンやブラジルで出生した場合がそれにあたる。憲法学者が議論するであろうが、第十四条及び第四十四条との整合性をどう取るかが問題になると思われる。
4. まとめ
蓮舫氏に批判すべき点はあるのだが、どの程度の問題と見るべきかについて、明快な理屈はつけづらい。国籍法では罰則規定は無い問題で、公職選挙法違反は時効である。事実関係はだいぶ明らかになったが、二重国籍を認識していた、もしくは認識できていなかった事を端的に示す証拠は無く、手続き自体も誤解を招きそうな点は多い。蓮舫氏は既に謝罪済みである。もう追求可能な点は無いであろう。政治家としての資質の問題は残るであろうが、それは結局、選挙のときに考慮しましょうと言った程度の話である*3。ところで、蓮舫氏は芸能人からの政界進出だったので、2004年の時点で既に注目されていたと思うのだが、そのときにメディアはこの問題に気づかなかったのであろうか。
*11984(昭和59)年国籍法改正で父母両系血統主義に:日経ウーマンオンライン【働く女性の40年史
*2「■二重国籍だった蓮舫議員!国籍についての発言一覧!まとめてみました!!」を参照。なお、2016年9月以前の記事については、過去のことが現在のように書かれたと言う蓮舫氏の弁解がある。
*3過去の例を見る限り、今後の選挙には影響しないであろう。多数の大物議員が疑惑に関わったリクルート事件や、石原慎太郎氏の黒シール事件のようにグレーな事例も勿論、鈴木宗男氏のように公職選挙法違反で有罪になった人が当選するケースもある。
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