2015年4月24日金曜日

「ロスの知人」のエミコヤマdisについて

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立派な人でも筆が滑ることはある。従軍慰安婦問題で著名な秦郁彦氏の雑誌『正論』2015年3月号に掲載されたエッセイで、活動家のエミコヤマ氏について誤解が並べられていた。「ロスの知人から届いた情報によると」から始まる四段落(P.113 中段)なので「ロスの知人」がニュース・ソースなのだと思うが、少なくともこの問題に関しては信頼はしない方が良かったようだ。意見を両極端に分類し、党派的対立構造を作ろうとしている。

1. エミコヤマ氏を強硬左派に思わせる誤り

エッセイには気になることが二点ある。まず、エミコヤマ氏が書いた『「在米日本人の“慰安婦”否定論者に反撃する」と題した最近の英文ブックレット』に言及しているのだが、英文ブックレットは Against Japanese "Comfort Women" Denialism in the U.S.: an introduction to "comfort women" controversy と言うタイトルなのだが、against が「反論」ではなく「反撃」と意訳してある。攻撃的な政治姿勢を連想させる表現だ。「否定論(Denialism)」は「否定論者(Denialist)」と意訳されており、人格攻撃をしているかのように思わせる*1。また、「戸塚悦朗弁護士が(中略)小山エミと組んで、全米の大学を歴訪する予定」とあるのだが、エミコヤマ氏曰く現時点でそういった事実は無いそうだ。戸塚弁護士は「性奴隷」と言う表現を使い出した人物と言われ、従軍慰安婦問題では強硬左派の代表として知られる。エミコヤマ氏を強硬派の一員に思わせたいのであろうか。

2. 強硬左派とエミコヤマ氏の違い

どちらも微細な所だが、従軍慰安婦問題の意見を解決すべき問題が残っているか否かで肯定派と否定派に二分し、エミコヤマ氏を肯定派に分類しようとする意図が透けてみる。エミコヤマ氏は賠償問題などについては何も主張していないし、否定派の反論を受けやすいセンセーショナルな性奴隷と言う表現は避けるべきとも言っているので、戸塚弁護士や挺対協とは必ずしも歩調は同じではない。むしろ日本兵が銃剣で朝鮮人を脅して娘を連れ去ったという韓国国内で未だに強く持たれているイメージを否定した上で従軍慰安婦の問題点を指摘しているので、全面的ではないにしろ秦郁彦氏が評価する朴裕河氏や柳美里氏*2の見解に近い。二分すれば肯定派だが、同じにしてしまうのはおかしい。

3. 極端な印象を与える人物紹介

『「フェミニスト、レズ坊、オカマ、売春婦、両性体質など多彩な社会活動を扱う活動家」と自称する』とエミコヤマ氏を紹介しているのだが、文が捩れているし、単語が分かるようで意味不明だ。本人は否定していなかったが、「自称」しているのかも良く分からない。同性愛やトランスジェンダーはこの問題に関係ないので、短く「フェミニズム、買売春などの多彩な問題を扱う活動家」と書くべきであろうし、そうしない所に意図を感じる。括弧でくくられているので「ロスの知人」の表現だと思うが、人々の偏見を引き出して、エミコヤマ氏の主張が極端なモノだと思わせようとしている気がしなくも無い。

4. エミコヤマ氏の建設的な使い方ではない

「ロスの知人」は意見を両極端に分類し、党派的対立構造を作ろうとしているように思える。エミコヤマ氏を極端な肯定派に仕立てようとしているところから、恐らく否定派なのであろう。自覚しているかは分からないが、愉快犯になるので関心しない。従軍慰安婦問題で意見があわない言論人を親日勢力と吊るし上げて回っている挺対協ら韓国左派と、同じ手法だ。米国事情を議論しつつエミコヤマ氏に触れるのであれば、氏のグレンデール市の慰安婦像撤去請求裁判の判決文の説明などを参照して情報源として利用したほうが建設的だと思うのだが。

たまたま「ロスの知人」はこれを知らなかった? ─ ウェブで公開もしていない英文ブックレットの入手をしていた「ロスの知人」はかなりのエミコヤマ通、事情通だと思うので、このシノドスの記事を把握していなかったとは思えない。ヨン氏がブックレットで言及されていると言うのは誤解があるので、中身をしっかり読んだかは分からないが。

*1私が貰ってきたバージョンと異なる可能性はある。

*2慰安婦と戦場の性」P.386の下段を参照。

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