「世界史をつくった海賊」は、大航海時代のイングランド(1707年にスコットランドと合併してイギリス)の海賊の活動とその後を記述した本だ。映画の元になりそうな逸話が色々と書いてある。時系列で整理していないのでマルクス経済史観に染まった読み手で混乱する人もいたようだが、読み物として面白い。
16世紀のイングランドは海洋国家としての基盤が無かったため、有利な条件で貿易を行う事ができなかった。ポルトガルとスペインが貿易港や航路を抑えており独占販売権を持っていたためだ。スペインやポルトガルに対抗するために富国強兵を計っていたが、貿易で国家収入の拡大を行うのは難しかった。
ここでスペインやポルトガルの商船の積荷や船を強奪してしまえば、両国に打撃を与えつつ、国家収入を潤す事ができる。エリザベス女王はホーキンズやドレークといった海賊船団に出資を行い、非公式に海賊行為を奨励することになった。王室船を貸出し、1585年には海軍を海賊船団に編入することまで行われている。海賊の中には名門出身の高学歴層もいたようだ。
1568年のサン・フアン・デ・ウルアの戦いのようにスペイン側の反撃を受ける事もあったが、戦果は概ね上々であったらしい。正確な規模は記述されていなかったが、国家収入の何割かに相当する程度の収入になっていた。スペインとの戦争における戦費や軍備の調達において、多大な貢献をしたと著者は主張する。
1588年のアルマダの海戦でスペインと直接対決になった時は、海軍に海賊船団を編入する事で戦力を整えたようだ。ただし当時としては大きな戦果を上げるものの、スペインの“無敵艦隊”を壊滅させたわけではなく、スペイン海軍のイングランドへの作戦は続き、またイングランド海軍のリスボン攻撃は大きな打撃を受けており、海賊が英西戦争でイングランドを勝利に導いたわけでは無い。
1655年にイングランドがカリブ海のジャマイカを占拠し、1670年にマドリード条約でスペインに英領植民地として承認させると、その条件としてイングランドは海賊の取り締まりを行うようになった。また、同時期の英蘭戦争やその後のスペイン継承戦争で、航路や販路を確保したため、海賊の存在価値が低下し、海賊の時代が終わる。
時代の変化で海賊が全員いなくなったわけではなく、有力な海賊は商人に転進したようだ。1595~1597年にオランダが、ポルトガルとスペインの影響が少ないジャワ島への遠征を行い成功し、1600年にイングランドでも東インド会社が設立されアジアへの進出が開始されるが、その設立メンバーの多くは海賊であった。また、その前後に独占権が与えられた貿易会社が多く設立されている。
イングランドには船を持った暴力的な人々がいて、国情にあわせて、16世紀までは他国船からの強奪をビジネスにしており、17世紀から徐々に貿易を中心にしたビジネスに鞍替えをしていった。英西戦争での功績や、その後に輸出入されるようになった商品が生活スタイルを変えたことを考えると、確かに「世界史をつくった海賊」と言っても過言ではないかも知れない。
0 コメント:
コメントを投稿