2021年8月13日金曜日

YoutuberのメンタリストDaiGo氏に、生活保護などの弱者保護の必要性を説明したい

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

人気YoutuberのDaiGo氏が、生活保護に対する歳出はDaiGo氏の利益にならないと言い出して、多くの非難が集中する炎上状態になっている*1。社会保障の専門家も非難しているのだが、観察範囲ではどうも正当化が弱い。天下り式に人権と言われても、その人権が必要な理由は分からない。同じ社会の他の人々への慈愛が無いメンタリストDaiGo氏でも受け入れられるような、生活保護などの弱者保護の必要性の説明を試みたい。

1. 紋切り型の説明は説得力を持たない

DaiGo氏に他者への慈愛を持てといっても無理であろう。動物にもある自他融合的な情緒的共感がモラルの起源*2ではあるが、生活保護受給者やホームレスの人々と接していなければそれは無理だし、報道されている餓死者の事例を見るに、困窮者に接していても自己と同一化するのは難しい。

歴史的に社会保障の導入理由となった、暴動抑制から利益を得ているとも言い難い。現在の生活保護受給者は本当の社会的弱者が大多数なので、生活保護を打ち切られたら暴れる力もなく死ぬだけだ。仮に暴動が起きたとしても、DaiGo氏の生活圏とは遠いところでになる。貧困層がおこした暴動と言えば西成暴動が有名だが、貧困層でも腕力がある人々が寄り集まって暮らしている地域だから起きたことだ。

誰しも運が悪いと困窮するわけで、生活保護はDaiGo氏にも利益がある保険ですと言う社会保障の専門家節は言えなくもないが、実際のところ既にかなりの貯金がありそうなDaiGo氏には限りなく可能性の低い状態である。低所得者は困窮しやすく、高所得者はそうではない現実を考えれば、DaiGo氏に限らず一定以上の年収の人がリスク評価をしたら、生活保護の期待利益はリスク回避度を加味しても低いものだ。

2. 社会への信頼をもたらす富の分配

直接的な利益は無いわけだが、DaiGo氏にも同じ社会の他の人々への慈愛を持つか*3、困窮者の利益も考慮すべき理由はある。DaiGo氏が生活している社会が、多かれ少なかれそのような方針で運営されており、その社会からDaiGo氏も利益を得ているからだ。

我々は同じ社会の他の人々の利益も考慮するような社会に住んでいて、格差是正は公共の利益に叶うと考えている。実際に、税制は富裕層の負担が大きく、中間層以下は軽いし、社会保障支出でも配慮がある。日本だけが特異なわけではなく先進国は概ね所得再分配に熱心だし、アメリカや開発途上国でも寄付は善行と考えられているし、中世社会でも施しは善行であった。

税や歳出に限って言えば、富裕層が多少、富を失っても不利益は小さく、それを譲り受ける中間層以下の利益が大きいと考えているので、所得再分配は行われている。この理屈で富裕層から中間層以下との間の格差是正が公益ならば、中間層以上と貧困層の間の格差是正も公益と考えるべきだ。DaiGo氏の直接的な利益に反しても、社会にある富の分配に対しての考え方には沿っている。

この功利主義的な富の分配思想*4によって、人々は許容範囲な程度には社会は公平だと信じることができる。個々の人々が得る収入と言うのは、往々にして生まれなどの運に左右されるし、社会制度のあり方にもよる。所有は政府があることで成立する法的な慣習であり、財産権は絶対視できない。弁護士や会計士は実力で稼いでいるように見える高収入だが、法規制なしでもここまで高収入であろうか? — 免許による排他的独占権が押し上げている部分も大きいはずだ*5。功利主義的な富の分配が無ければ、不公平で不正な社会だと信じる人々が増えてしまう。

人々が許容範囲な程度には社会を公平だと信じることは、社会の安定をもたらす。つまり、警察などの治安維持能力などには限界があり、人々が社会的ルールを尊重すべきだと考えるからこそ治安が維持されているわけで、社会が不公平なものだと感じられれば、治安は維持できない。生活保護を受ける脆弱な貧困層だけではなく、腕力があって何とか生活はできている貧困層だって多くいる。功利主義的な富の分配は、犯罪や暴動やクーデターなどが多い社会にならないための知恵とも言える。

社会不安が増して犯罪が増えたら、組織に属さないので仲間が少ない自営Youtuberなんて真っ先に犯罪のターゲットにされるし、人々の反感を買うことを言ったら南米スタイルで暗殺される。DaiGo氏の生活や振る舞いは、功利主義的な富の分配の思想、格差是正によって多かれ少なかれ支えられているわけだ。レバノンに逃走した元ルノー/日産CEOの金持ちゴーン氏も、レバノンがああなってしまったので生活は大変そうである。DaiGo氏もこの富の分配に対しての考え方は支持するべきだし、そこから生活保護制度の必要性が言えるのだから、DaiGo氏も生活保護制度の存在を甘受すべきだ。

以上は、DaiGo氏以外の生活保護を受給する可能性が無い人々にも言える。

3. まとめ

生活保護制度がDaiGo氏の直接の利益にならなくても、生活保護制度を支える思想は利益に叶っていて、その思想から生活保護制度の必要性が言えるので、DaiGo氏は生活保護制度の存在は受け入れるべき*6。個々の制度からの利益不利益ではなく、制度の背景にある道徳や倫理で考えるのはどんぶり勘定だと思うかも知れないが、行き当たりばったりだと人間と人間を調停するルール足りえないので、物事は道徳や倫理で考えざるを得ない。

ところでホームレスの人々を見たくないと言うのであれば、ホームレスの人々に住居を提供する施策があるので支持して欲しい。住居があると就業可能性が増すので、浮浪者には家を与える方が安くつくと言う研究がある。

*1痛いニュース(ノ∀`) : DaiGo「生活保護の人とホームレスは社会にいらない。生活保護に食わせる金あるなら猫救え」「邪魔だしプラスになんないしいない方がいい」 - ライブドアブログ

ホームレスの人々は抹殺して排除しろと主張しているようにも読めるのだが、ホームレスの人々は生活保護を受けつつ街で寝ていると勘違いしている可能性もあるので、そうは解釈しなかった。

*2関連記事:人々が実際に持つ倫理を考える『モラルの起源』

*3友人や隣人に情緒的共感が抱け、かつ人間は公平に扱われるべきと言う原則を維持できるのであれば、見ず知らずの人々にも友人や隣人へと同様の配慮をすべきとも言える気がするが、DaiGo氏は公平に重きを置いていない気がするので考えない。

*4功利主義に忠実であれば、現在の社会よりもずっと所得再分配は強化されなければならないし、国際援助などももっと多額であるべきとなるが、現在のところ、人々がそれを受け入れるとは考えられない。

*5関連記事:税制に一家言持ちたい左派は読んでおくべき「税と正義」

*6もちろん就業意欲喪失効果や不正受給などの問題などもあるので、どのような生活保護制度も受け入れるべきとは言えない。

0 コメント:

コメントを投稿