2021年8月27日金曜日

アフガニスタン邦人・現地人スタッフ救出作戦が突きつける政府専用機は必要なのか問題

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想定すべき状況を大きく間違えていて、大型旅客機が無用の長物になっている可能性がある。

政府要人の外遊に利用されていることが多い政府専用機だが、イラン・イラク戦争の時に在留邦人の脱出ためのチャーター便を日本航空(JAL)が拒否したことが導入契機になっており*1、航続距離が長い大型旅客機を選定している理由になっている。政府要人を運ぶだけであればBoeing 787で十分で、先代の747-400や現行の777-300ERを採用する必要はなかった。

しかし、海外邦人の救出に、この政府専用機が役立ったことはない。2013年のアルジェリアではテロ行為の犠牲者と生存者、2016年のバングラディッシュでは犠牲者と遺族を運んだが、実際のところ民間航空会社のチャーター便が利用可能な状況であった。2004年4月のイラク、2016年7月の南スーダンではC130輸送機が利用されている。今回のアフガニスタン邦人/現地人スタッフ救出作戦も、C130が2機、C2輸送機が1機がアフガニスタン入りする機材として選定され、3機の自衛隊の輸送機でイスラマバードに移送したあと、イスラマバードから日本へは民間チャーター便を使うことになっている*2。後から追加で派遣された政府専用機は隊員や物資を移動させた*3が、それだけである。

政府専用機の導入時の想定、間違っているのでは無いであろうか。民間チャーター機が使えないぐらい軍事的に危険な紛争地域では、対空ミサイルへの備えがなく、防弾仕様になっていない大型旅客機は離着陸するに向かない。現地で機材にトラブルが生じたときに、地上スタッフになる自衛官が修理できない機材は、さらなる問題が生じたときに何も対処できなくなる可能性がある。周辺の比較的安全な空港に駐機することになるが、それだったら民間チャーター機で済む。邦人が急いで退避しないといけない状況では、要人用から救出用に内装の換装している暇も惜しいし、航続距離と積載量が改善した新しいC-2輸送機の実用化で、大型旅客機を利用しないといけない可能性も減った。訓練や機材繰りを考えると、運用数が多いC-2輸送機を派遣する方が合理的だ。

C-2とB777-300ERでは座席数と航続距離は倍以上違うので、まだ政府専用機が有用な状況も考えられそうなのだが、可能性は低そうだしC-2で凌げそうだ。地球の半径は6,371Kmで、C-2の航続距離は搭載36tで4,500kmだから、無給油で日本と往復するのは不可能な場所は多い。今回のイスラマバードのように給油ポイントが要る。しかし、紛争地域から2,000Kmほど給油不可能な状況も考えづらい。一度、C-130とC-2と民間チャーター機の組み合わせで対処できないのか、検討しなおしてみるべき。紛争地域で邦人を空港まで移送させる方法が、まず問題になりそうな状況だが。

*190年代の証言 宮澤喜一 — 保守本流の軌跡

*2邦人帰国にチャーター機活用 | ロイター

*3「政府専用機は25日朝にも、日本を出発する予定で、隊員や物資を届けたあと、日本に戻るということです。」(アフガンからの退避 政府専用機を追加派遣で最終調整 | アフガニスタン | NHKニュース

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