2021年7月17日土曜日

㈳Springの性被害の実態調査アンケートからは、性的同意年齢の引き上げの必要性は言えない

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立憲民主党の本多議員の騒動に関連して、一般社団法人Springの性被害の実態調査アンケートの中身を見てくれと言われて、ざっと目を通して見たのだが、回答者数が多くても、標本の偏りが激しいネット世論調査の一つの事例になってしまっていた。しかも、同一人物が複数回回答可能とあって、悪戯を排除できているのか疑問もある。サンプリングの問題でこれは完全に信憑しませんと言われても仕方が無いし、統計に真面目な人ほど言いかねない。

1. 性暴力被害の全体像は反映していない

標本の偏りについて一応説明しておくと、「WEBアンケートを作成し,SpringのWEBサイトにて公開」「WEBアンケートについて、㈳SpringのSNSおよびメーリングリストで告知」と特定の人々しか目に見ないところで、積極的に回答する人を対象にアンケートをとっているので、㈳Springの主張に共感している人が大多数である蓋然性が高い。つまり、被害を認識できなかった人や解離性健忘が生じた回答者の割合が高く、性暴力に対して司法を使って対処した回答者、そもそも(性的パートナーからの)性暴力は受忍すべきと考えている回答者の割合が低い可能性が高い。よって性暴力被害の全体像を反映しているとは言えないので、現在の法制度で救済されない被害者がいることは言えても、「調査結果から明らかになった性暴力被害の実態は、現在の法制度から乖離していることも分かった」(結果報告書②〜量的分析所感〜)と言うような事は言えない。望ましい性交同意年齢に関しても、一般的な意見とは言えないし、性暴力被害者に絞っても代表性は怪しい。暗数についても何も言えない。

2. 被害類型の参考にはなるかも知れない

調査方法はダメなのだが、運よくバランスしたりしないかなと、「表1-6 被害時の年齢の年齢カテゴリ別データ」をチェックしてみた。なお、報告書では最大値のセルの文字を赤太字にしているが、列ごとに年数の間隔が異なる。7-12歳は6年間だが、16-17歳は3年間だから、1699と725でも、年数で割って283.17と362.50にしてから比較すべきで*1、このアンケートでも16-17歳の方が被害にあいやすいと言う話になる。身体に触れる/撮影/見させられたは16-17歳がもっとも多く、挿入を伴うは18-19歳がもっとも多いとなった。サンプリング・バイアスは強く入っていることは否定できないが、「犯罪被害者等施策に関する基礎資料」と突き合わせて、(検定をしたら違いは出るが)そこそこそれらしい値ではある。被害類型の参考にはなるかも知れない。

しかし、データ整理をもう少し工夫して欲しかった。性犯罪対策の資料とするのであれば、性犯罪発生時の状況が明確に分かるようにして欲しい。痴漢と、児童虐待的なモノと、デートレイプ的なモノ(IPV)と、アカデミック/パワーハラスメント的なモノで大部分を占めそうなのだが、これらの対策は同じとは行かないはず。量的分析所感の「4. 現在の刑法改正をめぐる検討点について」でも、痴漢より重大な行為を問題にしている*2。「地位関係性を利用した性被害」のクロス表(表1-47/1-48)と「強制性交等罪に類する被害の経験年齢と加害者との関係性」のクロス表(表1−52/1-53)からだいぶ想像はつくのだが、もう少し分類を細かくして欲しい*3。せめて、加害者の属性ごとの被害継続年数は検討すべき。被害継続年数は平均4年超と長く(表1-8)、加害者の人数はほとんどが1名(表1-10)なのだが、見知らぬ人に何年間も身体に触れられているような事が起きていないか気になった。また、被害継続年数10年超もそこそこの件数があるのだが、どういう関係なのであろうか。

痴漢を明確に議論していないせいか、罪の重さが強制性交等罪と強制わいせつ罪の二つ分類されていて、迷惑防止条例違反程度の数がわからなくなっている。強制わいせつ罪に合算してしまっているようだ。同様に、メッセージがはっきりしない部分がある。「社会には性暴力は「突然」「見知らぬ人に」というイメージが未だ根強く残っているが、特に挿入を伴う被害の多くは、家庭内や親族間、あるいは見知った人によって起こっている」とあるが、集計とあわない言及だ。痴漢を明確に議論して、痴漢を除外してデータを見せてくれた方がストーリー性があってよかったかも知れない。見せ方を工夫しすぎると、イカサマと言われるので微妙なところだが。

2. 政策提言とデータの乖離

性交同意年齢の引き上げを主張しているのだが、根拠となるアンケート結果の回答は、回答者にバイアスがある。おじさんと恋愛をして良い思いをした小悪魔さん、被害を未然に防ぐ行動が取れた女性は脱落しているであろう。そして、この調査の結果の一部も性交同意年齢の引き上げを支持しない。

  1. 性的同意年齢がデータに切断をもたらしていない。「表1−6:被害時の年齢の年齢カテゴリ別データ」では、13歳未満の被害も多い。淫行条例で保護される18歳未満の被害も多い。痴漢を除かないせいだと思うが、同意の上で起きていないと考えられる見知らぬ人からの被害も多い。
  2. 「暴行脅迫要件・抗拒不能要件・不同意性交にかかわるまとめ」の「挿入を伴う被害について」「1−① 被害者状態と被害時年齢」は興味深く、13歳以降は大きく変化がない。これは、拒絶する能力が備わるのが13歳ぐらいと言うことで、性交同意年齢が13歳であることの妥当性を間接的に示している。「身体に触れる被害について」は痴漢やアカハラ/パワハラが多そうだが、13歳以降は被害者状態に変化が無い。

統計解析とは直接関係ないのだが、無理な政策的インプリケーションが気になった。「被害が認識しづらく、記憶を取り戻すのも容易ではない実態が明らかになったことから、10月の性犯罪検討会には、強制性交等罪10年、強制わいせつ罪7年の現行の公訴時効では短すぎ」とあるのだが、時間が経ったら公判に耐えられる供述はできないわけで、この観点からは公訴時効は長すぎではないであろうか。被害から時間が経っている回答者、記憶を捏造していたりしないか不安になるし。被害を被害とすぐ認識できるように、性教育を充実させるぐらいが現実的に思える。

「結果報告書③〜質的分析結果および考察〜」の数字でも、性教育・人権教育の充実が有効とする回答が1371件である一方、性犯罪・性暴力に関する法改正は506件に留まる(表3-1)。性交同意年齢の引き上げは16件、時効をなくすは31件。犯罪類型/加害者属性ごとに法改正を支持する程度が違う可能性があり、クロス集計をして見せ方を工夫すると、特定の犯罪類型/加害者属性において有効性を示唆するのかもだが、挿入を伴う重大な事例1267件に絞って比較しても少数だ。

㈳Springの方針的に法制度の改正を訴えたいのはわかるが、サンプリングバイアスを無視したとしても、エビデンスになっていない。立憲民主党の本多議員がこれを見ても性的同意年齢の引き上げに納得しなかったと言うが、本多議員が中身を精査したかは不明だが、確かに納得するべき情報は含まれていなかった。

*1よく読んでいくと、こういう話やバイアスの問題があることは分かっているいることが分かる。

*2冒頭に「性暴力は単に身体接触を伴うものだけではなく、精液をかけられる、そばで自慰行為をされる、匂いをかがれる、卑猥なことを言われるなと多岐にわたることが明らかになった。こうした行為もまた「性暴力」であることを、社会に伝えていく必要はある」ともある。

*3例えば被害時は未婚の女性が大半のようなので、見知らぬ人→痴漢/暴漢,同居/別居の父母/姉妹と親の恋人/親戚→児童虐待,パートナー/友人/知人→デートレイプ,教員/職員/塾先生/先輩/後輩/就活OBOG/上司/取引先→アカハラ/パワハラで分類して欲しい。

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