2021年4月16日金曜日

恋バナ好きおっさん/おばさんのための『セックスと恋愛の経済学』

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ネット界隈ではいい歳をしたおっさん/おばさんが日夜、恋愛や結婚に関しての議論を繰り広げている。ツイフェミの皆さんが根拠不明な規範的な話をしている一方、反ツイフェミの皆さんの多くが体験談か周囲から聞いた限りの実証的な話をしていてまったくかみ合わない感があるのだが、社会学や経済学で恋バナの研究は色々あるし一般書も幾つも出ている*1ので、インプットを増やして議論の質を向上させて欲しい。

その中でも下品なおっさん/おばさん向きなのは『セックスと恋愛の経済学』。書名通りセックスと恋愛(と結婚)に関する経済学の実証研究を紹介してくれる本*2。北米の恋愛事情が分かる。本書が出たあと、著者のマリナ・アドシェイド氏の本書の内容を紹介した記事が東洋経済で出た*3ので、どういう事が書いてあるかはよく知られているが、書籍の方はコラムが多くて小ネタが豊富。結婚で改姓した女性は、知性や野心で劣り、仕事はそこそこで家庭生活を重視すると雇用主が思うようになること(pp.170–171)や、カナダのティーンエイジャーは、14歳~15歳でも16歳~17歳でも同等の性知識を備えて行動しており、性交同意年齢の引き上げに強い合理性がないこと(pp.203–204)は、ネット界隈の言い争いに使えそうな話だ。高齢者の恋愛の話もある。アメリカでは女性の方が大学卒業率が高い上に、大卒と高卒の賃金格差が開いてきているので、夫が賃金を獲得し妻が家事を担当する従来型の夫婦関係が難しくなってきているような、日本の今後を想像させる話も紹介されている。日本の場合、女子好みの学部は高賃金の職に結びついていないが、今後は同様になるかも知れない。

学術論文を土台にした内容で、全般的に意外であっても手堅い内容だが、謎なところがなくもない。一夫一妻制のところだが、妻が高学歴の方が子の教育にプラスと言う話(p.142)にエヴィデンスが欲しい。「高学歴な母親ほど子供の教育に熱心なため、低学歴女性は結婚市場でさらに不利になります」(p.299)と言う話、どこから出て来ているのであろうか。タイガーママになりそうな配偶者を求める男性、寡聞にして聞いたことがない。「高学歴男性は、若く子供がたくさん産める女性から、教育がある少し成熟している女性へと好みが変わる」(p.299)ことはあると思うが。また、夫の時間を食いつぶすのが妻の幸福と言う視点がないと言うか、亭主元気で留守がいい観だけで一夫多妻制の合理性を議論していていいのか感が。同国人と結婚したほうが幸福度が高いから、家庭内分業よりも同類婚というような話がある(pp.175–178)のだが、移民との家庭内分業を狙った結婚、言葉や習慣の違いもあるので分業の効果を測るのに向かない気が。翻訳の問題も若干ある。相関性ではなくて、相関と訳して欲しかった(p.187)。相関関係も相関と訳して欲しかった(p.213)。扶養料は財産分与の誤りではないであろうか(p.242)追記(2021/04/16 13:34):原文でもalimonyであると教えてもらった。アメリカには日本にない、夫が離婚後の妻の生活を一定期間支えるalimonyという制度があるそうだ。なお、養育費とは別になる)。

謎な記述もあるのだが、全般的には興味深い。恋バナ好きの皆様は、読んでみるとよいと思う。

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