2020年1月9日木曜日

陣取り合戦の観点からイラン特殊作戦部隊を率いていたソレイマニ司令官の暗殺を評価すると

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2020年1月3日、米国を対象にしたテロへの予防的措置を理由として、米軍が無人機によってイラン革命防衛隊の特殊作戦部隊であるゴドス部隊ソレイマーニー司令官を暗殺した。イランからの軍事的報復に対し米国がさらに軍事的に報復するエスカレーション、イランが米国の同盟国に無差別に攻撃するような展開を、外交評論家や軍事評論家が懸念する事態になった。

しかし、1月8日、イランは事前のハネメイ師の宣言どおり、米軍(及び有志連合が駐留する)基地へのミサイル攻撃を行ったが、実害を抑制した象徴的なものであり*1、それに対してトランプ大統領は軍事行動はとらず経済制裁で報復すると延べ、暗殺からの報復合戦は一応の終了となった*2

この騒動、ネット界隈で国家間プロレスと揶揄されている*3のだが、事態はそれなり動いて、陣取り合戦の観点からイランの勝ちと考えられる。

1. イランの損害は大きくない

ソレイマニ司令官は、米国や国連が認定するほどのキーパーソンではない。兵卒からの叩き上げで有能な人物であったようだが、従事していた任務はヒズボラなどの中東各地の反米/反イスラエル/反サウジアラビア民兵組織などへの軍事訓練や武器提供、そしてそれらを通じたコネクションの構築であり、対米テロ活動の作戦立案で中心的な人物であったかは疑わしい。ソレイマニ司令官が中東各地のシーア派民兵組織を指揮命令する立場にあったと見なしているようだが、アメリカのCIAが育成・支援したウサマ・ビン・ラーディンが米国の言いなりであったかと言うとそうでもなく、それぞれの組織はそれぞれの思惑で動いている蓋然性が高い。また、イランが国策としてやっている対外政策であり、ソレイマニ司令官の任務を引き継ぐ後任もでる。

2. 米国はイラクとの関係の悪化が早まる

イラク国民議会は、駐留米軍含む外国部隊の撤退を求める決議を行った。米国とイラクの協定では、米軍はイラクにある基地から隣国を攻撃しないことになっており、隣国の要人暗殺は協定違反になる可能性が高いようだ。決議自体は自体は法的拘束力が無いようだが、米国とイラクの間の軍事協定には期限など終了条件があるわけで、イラク国民の反米感情が増大すれば撤退させられることになる。イラクは国民の6割がシーア派であり、イラク戦争で独裁政権であったフセイン大統領のバース党が排除された後、イランの影響力が増している。イスラム国(ISIL)がほぼ駆逐された今、イラク政府にとって米軍の価値は低下しており、遅かれ早かれ米軍の撤退を求めてくることは予想されていた。ソレイマニ司令官の暗殺はその動きを早めたに過ぎないとも言えるが、レバノン–シリア–イラク–イランの反米シーア派ラインの完成は、イランの孤立化を図る戦略とは合致しない。米国が何だかんだとイラク政府を懐柔し、駐留を引き伸ばすことも不可能ではないかも知れないが、民兵組織の米軍基地への攻撃が活発になることが予想される。

3. 事態を予測できていなかったトランプ大統領

ソレイマニ司令官の暗殺は、中東地域のイランの特殊工作能力に大きな影響が無い一方で、イラクと言う“陣地”を早々にイランに渡してしまう結果を招くもので、局面に過ぎないがアメリカの負け。米国の中東への関与を下げるとするトランプ大統領の公約とは合致するが、イラク国民議会の決議へのトランプ大統領の露骨に根拠不明の制裁に言及する感情的なコメント*4を読む限りは、想定外の結果であったと思われる。イランの正規軍から弾道ミサイルによる報復がされることすら予想していなかった可能性もある*5。「計画通り(ニヤリ」とは行っていない。ここからイラクでの情勢を立て直すのは、武力でイランを粉砕する以外には難しい。しかし、トランプ大統領は戦争はお金がかかるので嫌いだと公言してはばからない。イランとの戦争は、トランプ大統領の対イラン政策が間違っていたことを示すことになる。

*1衛星写真から見ると精度よく倉庫に着弾していることから考えれば、イランが全力で報復したのであれば、多くの死傷者が出たと予想される。

*2河野防衛大臣のブログに時系列で見た事件の一覧がある(イラクで何が起こったのか | 衆議院議員 河野太郎公式サイト)。

*3イランが、米軍に人的被害を出さないようにしつつ、国内向けに米軍に大きな人的被害が起きたような誤情報を流しているのを見ると、露骨すぎてプロレス感があるのは確かである。

*4イラク議会、駐留米軍の撤退を要請 トランプ氏「大きな制裁」を警告 写真5枚 国際ニュース:AFPBB News

*5米国防省はコメントを拒否したが、イラクが目標にした米軍基地はミサイル防衛システムの防御エリア外と考えられる(Washington Examiner)。つまり、弾道ミサイルによる報復に備えないで、ソレイマニ司令官の暗殺の暗殺を実行した。

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