2019年8月24日土曜日

『ヒトラーとナチ・ドイツ』を読んで、ヒトラーの出世街道を確認しよう

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国際政治史が専門の板橋拓己氏が、ヒトラーとナチについては知りたい人々向けに、石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』とリチャード・ベッセル『ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い』を推奨していた。ナチス・ドイツ好きでは無いのだが、色々な人が言及したがるドイツ史なので、常識的なことは知っておきたい。『ナチスの戦争』は以前、拝読したことがある*1ので、『ヒトラーとナチ・ドイツ』をざっと拝読してみた。

表題通りにヒトラーとナチス・ドイツの活動履歴の本になっている。内容重複が多いので、常識を知るという目的では『ナチスの戦争』と同時に読む必要は無い。本書の方が執筆時期が新しいためか、記述が踏み込んでいるようである。『ナチスの戦争』では「水晶の夜」は誰が仕掛けたのかは断言していなかったが、本書ではナチスの工作であると断言していた。『ナチスの戦争』ではヒトラーは破滅願望で動いていたように描写されていたのだが、本書では自滅を望んでいるようには感じられない。出世街道の記述に重心があり、ヒトラーが反ユダヤ主義になった時期や、前身のドイツ労働者党に入った経緯なども多少詳しい。もっとも大きな差ではなく、同じように同時代の他のドイツの主要プレイヤーの事情の説明が薄いので、『ワイマル共和国―ヒトラーを出現させたもの』あたりと併読した方が全体像が見えてくるかも知れない。どちらを読めばいいのかと言うことになりそうだが、(1938年までに)『路上から失業者の大群をなくし、ヴェルサイユ条約の桎梏をひとつひとつ打破していくヒトラーは、プロパガンダの演出効果もあって、国民各層から「希代の指導者」と評価されるようになっていった』(p.290)と言うような大雑把な史実を確認しておきたい人には、本書の方がよいであろう。文学的には(と言ったら怒られるかもだが)、『ナチスの戦争』の方が陰惨で面白い。

歴史家が常識としているような話でも細かいことは書かれていない。先日問題視されていたナチス(NSDAP)はナチ党を自称していない、ナチは蔑称であるという話、p.38の党名変更の部分を読んでも分からない。ネット界隈で言い争うため、知ったかぶりするための準備としては、十分ではない。だいぶ前からなのだが、この辺のメジャーな歴史の事項の細部に関しては、新書よりもWikipediaあたりの方が頼りになる。マイナーなところなのだが、優生学に関する説明がちょっと雑な気がする(pp.302–309)。病気になりにくい血統をつくろうと言う優生思想と、「劣悪」なのを抹殺して「優秀」な血統だけの社会をつくろうと言うナチスの安楽死殺害政策の間には乖離があるはずだが、議論されていない。『優生学と人間社会*2あたりも併読しておく方が、バランスがよいであろう。

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