2019年8月18日日曜日

社会学者の卵の古谷有希子さんの日韓関係への認識について

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社会学者の卵の古谷有希子氏が「日韓関係の悪化は長期的には日本の敗北で終わる」と言うエッセイを書いていて、色々とツッコミどころがあるのではてなブックマークのコメントが賑わっている。既出な問題な気もするが、大きな無理解が4つあるようなので指摘しておきたい。

  1. 韓国司法の直近の法理を理解していない。古谷氏は「(韓国)司法が個人請求権を認めた」と言っているが、不正確な記述である。2018年10月以降、韓国司法は日韓請求権協定自体は有効だと考えており、未払賃金や補償金への請求権は消滅しているとする一方で、「強制動員慰謝料請求権」は請求権協定の適用外であると判決した*1。2012年大法院判決では、政府が勝手に個人請求権を消滅させることが違法と言っていたのだが、6年経って論法が変わった。何はともあれ、日本から見れば「請求権協定に対して、それを覆すような態度」になるわけだが、韓国からみれば韓国大法院の判決は請求権協定と何も矛盾していない
  2. 韓国政府の個人請求権に関する従来の態度を把握していない。「韓国政府が個人請求権は消滅していないとの認識を示すようになったのが、2005年の廬武鉉政権」も不正確な記述で、廬武鉉政権下で消滅していないとされた個人請求権は、韓国人慰安婦・サハリン残留韓国人・韓国人原爆被害者のものであり、徴用工問題は入っていない。韓国政府が徴用工問題で個人請求権を認めたのは、2018年10月以降である。
  3. 日米の外交史を把握していない。「(請求権協定の合意を覆すことが)日米修好通商条約が現在のアメリカと日本の間では全く無効であるのと似たようなもの」と説明しているが、日米修好通商条約(1859年)は、条文の内容に基づいて改正交渉が行われ、日米通商航海条約(1911年)で不平等部分が解消されたので、日本が一方的に一部条文を無効としたり、条文の解釈を変えたりしたわけではない。なお、太平洋戦争前に米国から日米通商航海条約は破棄され、戦後、日米友好通商航海条約(1951年)が結ばれている。
  4. 日韓請求権協定に対する韓国国民の不満は協定成立当時からであり*2、強い反対があったことを理解していない。「民主化によって新たな権利意識を持ち、植民地支配についてもより構造的な問題を扱うようになった韓国社会が、軍事独裁化に国民の多くに真実を隠す形で締結された条約に違和感を持」ったわけではなく、時系列的に「日本の政府要人の度重なる歴史修正主義的発言・態度」が影響したわけでもない。

社会学方面の人あるあるなのだが、事実や経緯の確認が色々と甘い。古谷有希子氏の議論は、大幅に、もしくは全面的に書き換える必要がある。東アジア外交史、朝鮮近代史を専攻していたと言うような話も見かけたのだが、そうだとすると残念なレベルである。韓国研究者は新書など手ごろな文書もたくさん出しているので、目を通すべきであろう。日韓関係のWikipediaの記述は、特段、不正確と言うわけでもないので、そちらで誤魔化してもよいと思う。時系列的な順序も気になるので、年表なども確認して欲しい*3。日本の敗北条件についての説明も無く、論理的にもつながらないものとなっているので、そちらも改良して欲しい。

*1『外国の立法』No.278-1 【韓国】元徴用工への損害賠償を確定させる大法院判決

*2当時の韓国メディアはかなり膨大な補償額が期待できると報じていて、不当な合意に思えたそうだ(関連記事:権力闘争が良く分かる「韓国現代史」)。

*31987年の民主化宣言以降に挺対協など韓国の市民団体の動きが活発になったのは間違いないのだが、日本の政治家などの歴史否認主義的発言はそれらの動きを受けた後のものなのに気づいていない。

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