2015年5月16日土曜日

権力闘争が良く分かる「韓国現代史」

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隣国とは言え、第二次世界大戦後の韓国現代史に興味がある人は少ないと思う。文化的に憧れる対象でも無いであろうし、先進国であっても、軍事的にも経済的にも大国では無いからだ。曽祖父が生まれた頃は日本の一部だったとは思えないぐらい親近感が無いと思う。私も、かなり以前に読んだ「韓国の族閥・軍閥・財閥」と言う本のイメージで見る程度だった。池氏のこの本、細部に日韓両国に対する否定的な予断を感じる所はあるものの、族閥~軍閥~財閥と上手く韓国政治の権力者の変遷を整理していて印象深い。しかし1997年の本なので、もう少し新しい知識が欲しい*1

アジ研の本は記述が重たいので読みたく無い。新書程度でよい。しかし嫌韓本は読む気がしない。そこで、神戸大学の木村幹氏の「韓国現代史―大統領たちの栄光と蹉跌」を拝読した。狙い通りの読みやすい本で、狙ったのとは異なる内容の本だった。副題通りなのだが、意欲的な構成の英雄伝になっている。

太平洋戦争前から2008年までを11の時代に区切り、それぞれの時代で李承晩、尹潽善、朴正煕、金泳三、金大中、盧武鉉、李明博が何をしていたかが説明されていく。全斗煥と盧泰愚は学術的な評価が確定していないため、崔圭夏は恐らく重要ではないので、各所に名前は出てくるが大きくは取り上げられていない。政治弾圧やクーデターなども駆使した政治闘争が行なわれて来たことがわかる。そして政治闘争しかしていないように思えて気味が悪い。経済問題にしろ、外交問題にしろ、歴代大統領のビジョンが良く分からないのだ。

韓国経済の特色として、財閥(チェボル)がある。多角化にも程があると思うぐらい異業種を束ねている一方で、政府規制で金融業だけは統合されていないのが特徴だ。開発途上国で巨大企業グループは良く見かけるが、その中でも異質な面がある。歴代大統領が財閥をどう考えていたのか気になるのだが、特には触れられていない。また、60年代中盤に輸入代替工業化政策から輸出指向工業政策に転換し、さらにアジア通貨危機の後に各種の経済改革があって、経常収支赤字国から黒字国になったのだが、これらに関連しそうな記述は無い。経済政策の転換は、政治と独立して行なわれたのであろうか。

外交問題も同様だ。韓国は常に外交的に難しい状態にある。北朝鮮とずっと対峙しているし、対中、対日はもちろん、対米関係もある。対北朝鮮政策は政治的な論点になってこなかったのであろうか。金大中政権のときに太陽政策があったはずなのだが。対米関係や日韓国交正常化に関しての記述はあるが、それ以外の外交方針は争点にならなかったのであろうか。90年代から積極的に対中投資をしていたりするのだが、政治的な課題にならなかったのであろうか。対日関係も日本からの情報流入を厳しく制限していたし、それなり悪く日本統治を喧伝して来たはずだが、誰が主導したのか分からない。

韓国政治の本は色々あるので、経済や外交に焦点をあてる必要は無いと思うのだが、歴代の大統領の思想が政策に影響した部分は何らかの記述が欲しかった。官僚が主導して来たのかも知れないが、すると大統領はお飾りみたいなものになってしまうわけで、大統領に着目しても何も韓国政治を理解できないと言うことになる。大統領の権限が強いとされる韓国で、そんなわけは無いであろう。こういう分けで面白い本ではあるのだが、何だか気持ち悪さが残る部分がある本であった。

*1浅羽祐樹氏の「したたかな韓国」は拝読したのだが、これは日韓関係に重点があてられている。

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