2018年12月14日金曜日

マクロン大統領を引きずりおろしてもフランスが進む道は変わらない

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燃料税増税*1に端を発したフランスのデモと暴動「黄色いベスト運動」だが、増税延期になっても続いており、さらなる懐柔策*2が打ち出されても続いている。デモ組織者が明確なメッセージを掲げているわけではないが、マクロン政権の経済改革に対する不満が原因だと考えられている。しかし、不満をもたれている政策は、マクロン政権だからと言って出てきたわけではない。

1. 現状で無問題と言うわけではない

フランス経済がある種の問題を抱えていることは、広く認識されている。周辺国、ドイツやイギリスと比較して投資が少なく失業率が高い。付随して、非効率な官僚組織や、低品質サービスなサービスが槍玉にあげられている。拡張的財政政策でと思うかも知れないが、EU規則で財政赤字の拡大は禁じられているし、何十年と続く問題なので景気刺激策でどうにかなるのかは怪しい。財政赤字が大きい時期に失業率が大きく低下していたわけでもない。

2. マクロン政権の経済政策は教科書的

マクロン政権の対応は、労働規制を緩める一方、資産課税を小さくすることで、民間投資を喚起するものだ*3。教科書的。どの程度の効果があるのかは議論があるのだが、過去には失業率がフランスを上回ることもあった英独の状況を見るに、両国の政策を真似するのは不自然ではない。法人減税などにあわせた公務員数の削減や他の税目も強化も、EU規則の手前、不可避である。マクロン大統領が個人の嗜好に沿って思いつきで政策を導入しているわけでは無い。

3. 前任者もマクロン政権と同様の方向性

実際に、サルコジ政権、オランド政権を継承している。サルコジ政権は2007年に、所得減税法案を通している。オランド政権も2016年に労働法改正案を通過させて解雇規制の緩和を行っている*4。オランド大統領は2013年に、富裕税として所得税の最高税率を75%まで大幅に引き上げたので社会主義的なイメージを持たれているようだが、その税率は2年間の期間限定されたものであり、資産課税の強化は行っていない。マクロン政権が不動産以外への課税を廃止した富裕税(ISF)も、ミッテラン政権のときに導入されたものだ。

4. マリーヌ・ル・ペンが政権をとっても取れる選択肢は少ない

マクロン政権になってからの方が、改革は加速している。しかし、フランスが抱える問題に対する解決方法が他に目ぼしいものがない以上、行政能力に応じて速度が変わっているだけで、もうちょっと慎重な言動の為政者になる可能性はあるが、マクロン政権でなくてもやる事は変わらない。マリーヌ・ル・ペン率いる国民連合が政権をとったら状況が大きく変わると思うかも知れないが、ユーロ圏から離脱したとしても、対外依存率の高い国債消化や、為替レートの維持が問題になる*5ので、財政赤字が出せる程度が大きく増えるわけではない。自滅的なものを除けば、ほとんど何もしないか、過去の改革路線を踏襲するかの選択肢となる。

*1仏各地で燃料税めぐり大規模デモ マクロン大統領は治安対策を緊急協議 - BBCニュース

燃料税自体は英独と大差はないが自動車取得税などは重い方で(燃料課税と車体課税の国際比較(年間税負担額)の下図を参照)、2年合計でディーゼル燃料が€0.141≒18.05円、ガソリンが€0.068≒8.7円増税となった。

*2マクロン仏大統領、最低賃金引き上げを公約 黄色いベストの抗議行動受け - BBCニュース

*3土田 (2008)「就任から1年が経過したマクロン仏大統領の経済改革~労働市場改革を中心に一定の進捗~」経済レポート,三菱UFJリサーチ&コンサルティング

*4雇用・解雇を容易に、反発招いた仏労働法改正案 議会を強行通過 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

*5マンデル・フレミング・モデルだと財政赤字を積み上げても自国通貨が増価してしまい雇用改善にならないが、往々にしてインフレとともに自国通貨安となる。

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