2017年3月7日火曜日

豊洲市場の地下水のベンゼン濃度急上昇をどう捉えるべきか?

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9回目の地下水のモニタリング調査で、ベンゼン濃度が環境基準の79倍まで急上昇した理由について、あれこれ憶測が飛んでいる。9回目の調査業者が不適切な調査を行なったので異常値が出た、8回目までの調査業者(複数)が不適切で汚染を見過ごしていたなどと色々と言われている。

さて、賑やかで楽しい事になっているが、9回目が適切だったと主張するのは無理筋なようだ。他の数字とつき合わせると9回目の結果が極めて異常であり、証言から9回目は東京都も業者も調査精度を最優先にして仕事をしようとはしていなかった事がわかる。再調査でびっくりする可能性が無いわけではないが、今の数字自体は無価値に近い。

東京都がしっかり地下水の調査を監督していなかったと言う批判はあると思うが、豊洲移転の是非を決めるような材料ではない。そもそも食材の安全性や市場関係者の健康に影響が無い地下水の汚染をそう気にする必要はないので、事態の混乱だけが気になるわけだが。

1. 地下水位調整のための汲み上げ水は汚染なし

第4回豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の会議録を参照すると、「地下水の水位を低下させるためにくみ上げている水にはベンゼンが圧倒的に低いわけです。基準値の100分の1とか1000分の1とか、そういう値」(平田座長)とある。シアンも同様だ。豊洲市場の地下に独立した水脈が複数無い限りは、ベンゼン濃度にそう差が出たりはしないであろう。だから8回目までの数字の方が、それらしく見える。9回目の実施手順が厳密であるのであれば話は別だが、湘南分析センターの証言からは、そうとは言えない感じだ*1。無理が色々とあったのだが、東京都の強い要望で結果の責任は東京都にあると覚書を書かせた上で作業したと主張している。

2. 東京都がせかして調査が粗雑になった

一箇所であり、かつ高濃度のベンゼンが検出された調査井ではないのだが、雨水などを除去する前に行なうパージのときに抜き取った水を、試料として使っている箇所があった。当然、これは汚染調査としては意味が無い。業者は「地下水がたまるであろう翌日以降に採水をいただくように提案した箇所があったが、都の職員からパージ(抜き取った)水を分析試料として採水するよう指示があった」と東京都の担当者の意向であることを強調していた*2。都の指示であれば不適当な事も辞さなかったと言うわけで、他の200箇所の調査井の調査方法も不適切である可能性が出てくる。都は「地下ピットにたまった水を排水するスケジュールを優先した」としていて、精確な調査に勤めたとは言っていない。また、8回目までは立会いもほとんど行なわず放置気味だったのに、9回目だけあれこれ指示している所もあるようだ。

実際、パージ後、最短20分で採水を行なったそうだ。調査井から水を抜いた後、水位が回復して安定するまで、20分間で済むものであろうか。地下水の調査では、パージ後、水質が安定してきたと判断できた後に、土粒子を巻き上げないように採水を行なう*3。専門家会議の中島フェローは「採水をしたときに地下水が濁りで土の粒が入ったことで、その粒にあるものが地下水の濃度を上げてしまうというケースは我々も経験」と発言しており、平田座長も同意しているので、パージから採水まで一定時間を置く必要があり、特に土粒子が入り込まないように注意する必要があると考えて良いであろう。9回目の高い汚染濃度の理由がこれとは、専門家会議の委員も確証は無いようだが、再調査では、最低でも1時間を置くように決められた。だから全般的に、9回目の結果は疑わしい。

3. 8回目までが不正確な計測とも言えない

8回目までの数字がおかしい、特にパージ後、採水まで一日置くとベンゼンが揮発すると言う指摘があるのだが、これは問題を誇張しているように思える。ベンゼンは揮発性なので、水溶液を空気に接触させておけば、濃度が低下していくのは確かだ。だから原則として、パージ後、水質が安定したらなるべく早く採水すべきとなる。しかし、揮発性と言っても沸点からエタノールと同程度と考えられ、細いフタ付の筒状の調査井*4でそんなに急に消えてなくなるようにも思えない。8回目までの複数の業者は一日置いていたし、9回目の業者も一日置くことを提案していた。水質調査の会社の大半は、パージから採水まで時間を置くことを気にしていない。また、そんなに揮発するのであれば、パージ後、採水までの時間を記録して、検査結果を補正しないといけない気がするのだが、そういう処理が行なわれているわけではない。早く採水しろと言いつつ「水が溜まるのに1日かかるというのであれば仕方が無い」と言う専門家の話*5を見るに、そう致命的な問題ではないように思える。むしろ、9回目に「水没や変形、内部づまりなど井戸の不具合は50箇所以上あった」のだが、8回目まではそれらにどう処理していたかの方が問題に思える。

4. 地下水の汚染程度は問題ではない

再調査をしているので、そのうち誰が適切で、誰が不適切であったかはわかるであろう。それまでは、9回目が何かおかしい事になっているのにも関わらず、8回目までが適切であったとも言えない煮え切らない話になるのだが、ベンゼン濃度が高い可能性は薄いとは思っていて良いと思う。豊洲市場の危険性を誰かが隠そうとしている可能性も低い。しかし、東京都が定めた豊洲市場の環境基準では地下水のベンゼン濃度は厳密なのだが*6、別に飲んだり撒いたりしないのに過剰に気にされている所がある。

土壌汚染対策法を検討すると、豊洲市場に法的な問題は無い。大雑把に安全は確保されていると言って良いであろう*7。また、築地の土壌汚染について聞かれた小池都知事は、床がコンクリートやアスファルトで覆われているから問題ないと答えた*8。だったら豊洲も床をコンクリートで覆ってしまえば問題がないはずだ*9。空気中のベンゼン濃度は十分低いわけで、実害が無いことを気にするべきではない。オープン型で害虫・害獣が入り込みやすい上に老朽化している築地市場の方が、食材や市場関係者の健康には悪い。維持管理費用が5倍になっていて使用料アップは避けられないから、財布に悪いと思っている卸業者は少なくないようだが、それは環境問題ではない。

*1参考人が衝撃発言。豊洲市場の地下水採取、都による不適切な指示が発覚か | 東京都議会議員 おときた駿 公式サイト

*2豊洲地下水調査の業者証言、東京都が不適正な方法を指示 News i - TBSの動画ニュースサイト

*3滋賀県が公開している『【参考資料:1】適正な浸透水・地下水の採水方法について』を参照した。

*4「井戸は、直径5センチのパイプ状のもので、地上からの深さは、場所によって異なり、数メートルから十数メートルに設置されて」いる(NHK)。報道では映されなかったが、キャップも売っている(いどや)。

*5旧RD処分場周辺自治会の皆さんとの話し合いについて/滋賀県」の添付資料の専門家コメントを参照。

*6豊洲移転問題で小池都知事の対応を批判する人は少ないないが、その中に厳しい環境基準を地下水に設定したときの都知事も含まれているのが気になる。批判するのではなく不用意に環境基準を設定しましたと謝れば、小池都知事も方針転換がしやすい気がするのだが。

*7豊洲市場の安全は既に証明されており移転になんの問題もない : 宇佐美典也のブログ

*8築地市場の土壌汚染 小池知事、都議会で「健康に影響なし」:日本経済新聞

*9地下空洞部が覆われていないので、そこを埋めれば済むことになる。

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